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高齢者介護 〜医療の進歩の代償なのか世界を「数字」で回してみよう(51) 働き方改革(10)(9/10 ページ)

今回から数回にわたり、働き方改革における介護を取り上げます。突然発生し、継続し、解決もせず、被介護者の死をもってのみしか、完了しない高齢者介護。まずは、私自身の体験に基づく、高齢者介護の実態について語ります。

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ラズパイを使った自作の見守りシステム

 とはいえ、人の論文や発明にケチをつけるだけでは、ちょっと不公平だと思いますので、最後に、私が実家の両親を見守るために自作した、見守りシステムの概要を記載しておきます*)

*)ちなみに、親から直接依頼を受けました(私が驚いたくらい)。

 この私の作った見守りシステムを、自力で解析して、システムを再構築する気概を示して頂ける方であれば、私は、自作したシステムの一部(ラズパイ(Raspberry Pi)*))のカーネルのクローンなど)を、無償で提供する用意があります。

*)関連記事:「「ラズパイ」最初の10年、今後の10年

 それでは、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。


【1】政府主導の「働き方改革」の重要項目の1つである「子育て、介護、障害者就労」から、「介護」の"高齢者介護"、"寝たきり"の問題に絞って検討を行いました。

【2】江端家の介護年表を作成して「介護問題の全体像」の一例を開示しました。そして、介護問題はケースによって課題がバラバラになり、他人のユースケースは、全く役に立たないことを示しました。

【3】介護には「被介護人の回復時に完了するもの」と「被介護人の死亡時に完了するもの」の2種類があり、そして、高齢者介護とは後者であることを明言しました。

【4】「高齢者介護問題(以下「介護問題」)は、人類古来の問題ではなく、1945年(太平洋戦争)後に突然現われた」という江端仮説の元、これを、以下の観点から検証を試みました。

【5】(1)ウイルス性の大量死を発生させてきた病気に対する新薬が開発され、その結果、ここ75年間で、人類史上未曾有の平均寿命の増加が図られ、その結果、私たちは超短期間で死に至るチャンスを失うに至った

【6】(2)経口または胃ろうによる高カロリー消化態経腸栄養剤の補給や、点滴やらのエネルギー補給によって、食物が摂取できない状態でも生き続けることができるようになり、「延命は正義」という方針で法律や制度が運用されている

【7】この問題に関する、政府、NPOの対応や、テクノロジーの観点から俯瞰した結果、政府、NPOは活動報告に終始しており有用な情報提供が乏しいこと、そして、テクノロジーに関しては、特許庁の検索エンジンで調べてみた結果、優れた発明もあったが、その数が江端予想よりも遙かに少なかったことを報告しました。


 以上です。


 以前、別の連載の「もしも、あなたの大事な人が海外赴任になったなら」に書きましたが、私の仕事の都合で、家族で米国に赴任していた時、

脱水症状でグッタリした2歳の娘を抱きかかえて救急病院まで運び、医師の説明を、夫婦で命懸けでヒアリングし、聞いたこともない名前の飲料水を書いた英語のメモを握りしめて、深夜の街中を夫婦で走り回った日々は、今思い出しても胸が締め付けられる体験です。

という経験をしました。

 スプーンを使って水を飲まようとしても、すぐに吐き出してしまう娘が、上記の"聞いたこともない名前の飲料水"の最初の一口を飲み込み、それを吐き出さなかった時のうれしさは、今でも、驚くほど鮮明です。

 あまりにも嬉しくて、「よくやったぁ〜〜〜〜!!」と叫びながら、娘を空に投げ上げ、腕に抱き止め、そして強く抱きしめたことを覚えています。


 今回の帰省では、姉が事前に、メールで『びっくりすると思うよ』と私に知らせていました。

 ベッドの上で、倒木している枯れ木のような父の姿を見た時、私は、"びっくりする"、というより"震撼"しました。自分の足がガタガタと震え出すのを、初めて体験しました。

 帰省途中の電車の中で、父が、喜びそうで食べやすい献立を考えていた私は、『もう、そういう次元ではない』ことを、一目で理解したのです。

 そして今 ―― 私がスプーンを使って、お粥を父の口元に近づけ、父が、なんとか3分間に一口だけ飲み込んでくれるその一瞬が ―― もう、泣けてくるくらいうれしくて……。

 私の、「人生のうれしかったリスト」の上位を占めているものは ―― 出世でもなく(そもそも出世していない)、人生で初めての特許登録でもなく、自分の発明が製品化されたことでもなく ―― それは、いつでも絶望的な暗闇の中に見える「わずかな光」です。

 そして、そこには、いつも「スプーン」がありました。

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