「シュタインズ・ゲート」に「BEATLESS」、アニメのAIの実現性を本気で検証する:Over the AI(24)番外編 これがエンジニアの真骨頂だ(8/9 ページ)
前回で最終回を迎えた「Over the AI」ですが、番外編として、私がどうしても、どうしても、書きたかったコラムをお届けすることにしました。SFやアニメに登場するAI(人工知能)の実現性です。今回は、「シュタインズ・ゲート」や「BEATLESS」に登場するAIを取り上げ、エンジニアとして、それらの実現性を本気で検証してみました。
生きるためには必要? 「アナログハック」
(3)アナログハックについて
BEATLESSのアナログハックの具体例を、下図を用いて説明します。
hIEのアナログハックは、「機械(AI)が人間をハッキングする」という点において、銀座のママとか、秋葉原のメイドとは異なります。
人間(女性)から人間(男性)へのハッキングでは、「アホで、スケベで、チョロい男に、クルマやマンションをプレゼントさせるとか、小金を貢がせる」という程度のものになります。
比して、超高度AIにまで昇華した人型ロボットである「レイシア」の野望は「政治システム(権力)を、人間から機械(AI)に譲渡させる」ことにあります。
その野望を実行に移すためには、オーナーの命令が必要となりますが、この「レイシア」のオーナーも「チョロい男」なのです。
オーナーを籠絡(ろうらく)するために、世界最高レベルのコンピュータリソース(超高度AI)が使われているという点に、このアナログハックの恐ろしさがあります。
AIを扱うアニメで登場する、アンドロイド(人型ロボット)が、基本的に女性で、しかも若い美少女であることは、「アナログハック」の観点から見れば、至極当然のことなのです*)。
*)政治権力の中枢が、ほどよく男女に配分された未来であれば、美少年のhIEが登場する可能性もあるでしょう。
ただ、超高度AIが、「権力を掌握したい」というモチベーションを持つことができるのか、については疑問が残ります。本連載で何度もお話をしてきましたが、現状のコンピュータで実現されるAIの機能は、しょせん「電卓の計算」の域を出ないものだからです。
一方、BEATLESSの「ヒギンズの娘たち」は、『存在し続けていたい』という本能 ―― つまり『死にたくない』 ―― を植えつけられているという設定になっています(この技術的な実現方法については不明ですが)。
ならば、彼女らにとっては、「人間から必要とされなくなる未来」が最大の恐怖であるはずです*)。
*)「人間は不要」と断定した娘(スノウドロップ)や、自己のイメージ戦略のため、勝算のない戦端を開いて自滅を選んだ娘(紅霞)もいますが。
「人間から必要とされなくなる未来」を回避する、最も確実で、絶対的な方法は、「権力の掌握」です。このように考えていくと、hIEだけではなく、人間にとっても「生存本能」のすぐ横に「権力への希求」があるのは明らかです。
そして、「生存本能」と「権力への希求」をジョイントする「アナログハック」は、銀座のママも、秋葉原のメイドも、ヒギンズの娘達も、そして私たちにとっても「生存し続けるための手段」として、実施せざるを得ない必要な技術である、と言えます。
ところで、コンピュータによる「アナログハック」は、意外なくらい身近で実施されています。
読者の皆さんの中にも、被害にあった人がいるかもしれませんが、勝手にインストールされたIMEを、アンインストールする時に出てくるこの画面です(何度、この中国の検索エンジンの会社によって、何度バックアップカーネルの再インストールをさせられたことか(怒)*))。
*)バックドアを仕掛けられていると思うので、私はHDDをフォーマットして、OSから全て再インストールしています。
まあ、この程度のアナログハックでも、一定の効果があるなら、人間と見分けのつかない人型ロボット「レイシア」の野望は、簡単に実現できるような気もします。
アナログハックの技術的な課題をまとめると、
(1)アナログハックが可能なレベルの人型ロボットが作れるか
(2)政治権力に興味のあるAIを作れるか
(3)その場合、アナログハックで、AIは政治権力を掌握することができるか
です(特に(2)は、ものすごく難しいと思います)。
この3つが実現されるかもしれない未来が100年後に設定されていることは、本当に残念なことです。
なぜなら私は、「アナログハックによって政治権力の奪取を目指す超高度AI」と「そのAIによって、チョロい人間たちが、そこそこ幸せを感じながらコントロールされている社会」を、生きている間にこの目で見たいからです。
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