「シュタインズ・ゲート」に「BEATLESS」、アニメのAIの実現性を本気で検証する:Over the AI(24)番外編 これがエンジニアの真骨頂だ(9/9 ページ)
前回で最終回を迎えた「Over the AI」ですが、番外編として、私がどうしても、どうしても、書きたかったコラムをお届けすることにしました。SFやアニメに登場するAI(人工知能)の実現性です。今回は、「シュタインズ・ゲート」や「BEATLESS」に登場するAIを取り上げ、エンジニアとして、それらの実現性を本気で検証してみました。
「人工知能」なるものに会いたいのだ
なぜ、「コンピュータ」と「ロボット」でなければならないのか ―― 。
前述した通り、100万年オーダーの進化のプロセスで精錬され続け、低コストで、使いやすく、万能のインタフェースとアクチュエータと知能を備える、究極の知的生命体 = 人間が、私たちの目の前に山のように存在しています。
そして、人間の体細胞を使って、人間のクローンを作ることは、現実に可能です。そして、それらのクローンの量産によって、恐ろしいほどの低コストの労働力を大量に確保できます*)。
*)参考記事:外部サイトに移行します。このアニメでは、量産型体細胞クローン(シスターズ)の製造単価を18万円と設定しています(私は、妥当なコストだと思います)(名作です)
ここまででお話した、人間の脳の完全コピーによってコンピュータの中で生き続けている仮想人格(シュタインズ・ゲート/シュタインズ・ゲート ゼロ)、人間と同じ形をしている人型ロボットと超高度AI(BEATLESS)、そして、量産型体細胞クローン(シスターズ)の、3つの存在意義を、ひと言でまとめるのであれば、それは
―― 奴隷
ですよね。
その中でも、体細胞クローンは、現時点で最も安いコストで、最も短期間で実現できる、最も実現性の高い「奴隷」を作り出すことができます。
体細胞クローンが、直感的に嫌だというのであれば、DNAの配列を適当に操作して、「別人を作ると思い込むこと」で心理的な問題を回避できると思いますし、体細胞クローンの「脳の海馬に電極ぶっ刺す(by 牧瀬 紅莉栖(クリス))」ことで、自我を持たない人間にすることも可能であるはずです。
しかし、私たちは、こちらの道を選ぶことは難しいでしょう ―― オリジナルと、100%オリジナルと同じクローンに、どのような差異を見いだせるか不明ですし、オリジナルとクローンのどちらに「電極をぶっ刺しても」その結果に差がないということは、私たちの人間としての存在意義を根底から揺るがすものになるからです。
だから、私たちは、これからも、そっち(体細胞クローンの実用化)は目をつむり続ける、と、思います。
人工知能の話は、少子化社会や労働力不足とセットで語られています(だから「奴隷」なのです)が、実のところ、私たちはそんなことは、どーでも良いと思っているのではないかな、とも思うことがあるのです。
なぜ、「コンピュータ」と「ロボット」でなければならないのか ―― 。
私たちは、有機物でないモノ(無機物)が、知的生命体として振る舞う様(さま)を見てみたいだけであって、つまるところ、
私たちは、単に「人工知能」なるものに出会いたいだけ ―― 。
案外、これだけのことではないかな、と思うのです。
(謝辞)
では、本連載の終了に際しまして、謝辞を申し上げます。
江端からの膨大なページの原稿の修正、校正に加え、数々の炎上必至の江端の表現を、ぎりぎりのレベルで抑え続けて頂いた、EE Times Japan編集部の編集担当の村尾麻悠子さまに感謝申し上げます。
特に、最終回近くになって、「AI技術をエロのパラダイムで説明する」にこだわり出した私との「エロ」の表現を巡る「編集担当者Mさん(女性) v.s. 担当執筆者江端(男性)」の静かなメール攻防戦は、思い出深いものとなりました(いまだに私は、村尾さんが、「ローアングル」がダメで、「アッパーアングル」はO.K.と判断された理由を理解できずにおります)。
この連載開始前の打ち合わせで、「人工知能」の連載という青天の霹靂(へきれき)のオファーをされ、動転している私に、
「江端さん、私たちは、江端さんに人工知能を解説して欲しいんじゃないんですよ。『江端さんの(中にある)"人工知能"』を書いて欲しいんです」
と、私への説得を続け、『どうなったって知りませんよ』という逃げを打つ私に、『大丈夫です』と白紙委任状を発行された、EE Times Japan編集長の竹本達哉さまに感謝申し上げます。
本連載の内容で、講演のご依頼を頂いた、一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)の皆さまに感謝申し上げます。「AIブームの終焉 -End of the Boom-」という素晴らしい講演題目を付けて頂き、白衣での講演をご提案頂いたこと、心より感謝申し上げます。
その他、いろいろ、江端の人工知能に対する妄言、曲解、悪意、その他、もろもろの暴言を見逃し続けて(×見守り続けて)頂いた皆さまに、心より感謝致します。
最後に、私の嫁さんが、この連載中、『私の失職を本気で心配し続けていた』という事実をお知らせし、私たち家族の覚悟の程をお伝えしたいと思います。同時に、これからも、これまでと同様『見逃し続けて』頂けましたら幸甚と存じます。
以上、全24回、2年間の連載にお付き合いいただいた読者の皆さまに、最大の感謝を申し上げ、「Over the AI ―― AIの向こう側に」を完結致します。誠にありがとうございました。
2018年8月
江端智一
担当より、ひとこと
AIの連載をオファーした時には、まさか2年がかりの大きな連載になるとは予想していませんでした。第1次、第2次AIブームを知らない私は、この連載を通してAIを大いに学びました。特に「笑う人工知能 〜あなたは記事に踊らされている〜」を読んでからは、AIの記事を書く姿勢について猛烈に反省し、取材相手から「AI」という言葉が出た時には、つまりそれが何の技術なのかを明確にしてもらうようにしています(今は大抵の場合、機械学習/深層学習ですが)。
連載中の2年の間も、AI技術をめぐる報道は過熱するばかりですが、それでも、創薬や医療などの分野で希望を見いだせる成果が出始めたのは、素直に前向きに捉えてよいのではないかと、個人的には思います。……とはいえ、「AI」というからには、やはり「ナンシー」を求めてしまうのが本音ですが。
本連載はここでいったん終了となりますが、AI技術の進化は今後も続くでしょう。そして、何も勉強しようともせず、簡単に「AI」という言葉をふりかざすだけのマスコミや評論家たちに対する江端さんの、エンジニアとしての誇り高き猛攻も、きっと続くのでしょう。
いつの日か私たちは、Over the AI――、AIの向こう側に「ナンシー」を見つけることができるのでしょうか。それを夢見て、担当からのひと言と致します。
⇒「Over the AI ――AIの向こう側に」⇒連載バックナンバー
Profile
江端智一(えばた ともいち)
日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。
意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。
私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。
本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。
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