コードレス電話の標準から『音声+IoT通信』の標準を狙うDECT:音声コントロール普及を追い風に(1/2 ページ)
欧米や日本でデジタルコードレス電話の無線通信規格として普及する「DECT」がスマートホーム端末などでの利用が拡大しつつあるという。DECTとはどのような無線通信規格で、今後、どのように普及を目指しているのか、DECTフォーラムのジャパンワーキンググループ代表に聞く。
音声プラスIoTの通信は『DECT』という世界を実現したい――。
こう語るのは、デジタルコードレス電話で普及する無線通信規格「DECT」の普及促進を図る団体「DECTフォーラム」のジャパンワーキンググループ代表を務める森川和彦氏だ。DECTの応用領域をこれまでのコードレス電話だけでなく、スマートホーム機器やIoT端末へと広げようと意気込んでいる。
1.9GHz帯を利用する無線
DECTは、デジタルコードレス電話用の技術として1992年に欧州電気通信標準化機構(ETSI)によって規格化された無線通信規格だ。1.9GHz帯を使用し、通信速度は1.152Mビット/秒(bps)、通信距離は屋外で300m(室内では70〜80m程度)。通信トポロジーは、スター型で1台の親機と1台以上の子機で構成する。
規格化された欧州を皮切りに、北米、南米、オーストラリア、アジアなど世界各国でデジタルコードレス電話の通信規格として普及。「欧州や北米では、デジタルコードレス電話通信のほぼ全てをDECTが占め、デジタルコードレス電話の世界標準になっている」(森川氏)という地位を確立している。
日本では2010年から使用可能に
日本においては、過去、2.4GHz帯を使用するデジタルコードレス電話が主流だったが、2010年10月に総務省による省令改正により利用が可能になり、電波干渉が問題となっている2.4GHz帯ではなく、干渉の恐れが小さい1.9GHz帯を使用し、2.4GHzコードレス電話通信よりも2倍高速な通信が行え、欧米でも普及しているという点などが評価され、DECTを採用したコードレス電話の新製品投入が相次ぎ「瞬く間に普及した」(森川氏)。森川氏は「今後3年ほどで、デジタルコードレス電話の全ての通信がDECTに置き換わるだろう」と述べる。
デジタルコードレス電話領域での普及が進んだ中で、DECTが次に目指すのが、IoTの領域だ。Wi-FiやBluetoothといった2.4GHz帯の通信に比べ、干渉の恐れが小さく通信距離が長い、ZigBeeや各種サブギガヘルツ通信などIoT向け通信では通信速度的に難しい音声/ビデオデータが伝送できる、という“無線として独特なポジショニング”を生かし、IoT領域を狙う。
低消費電力版DECT「ULE」の登場
ただ、IoT領域を狙う上で、DECTにはいくつかの課題があった。最も大きな課題が、消費電力の問題だった。元々、コードレス電話のために開発された通信技術であり、IoT端末で要求される「乾電池だけで数年動作する」というような水準の消費電力性能を前提としていなかった。そこでDECTフォーラムなどは、「単3形乾電池2本でも10年以上動作する」をコンセプトに、DECTの拡張版規格に相当する「ULE(Ultra Low Energy)」を2013年に規格化。DECTフォーラムとは別に規格標準化団体「ULEアライアンス」を立ち上げ、活動している。
このIoT領域を狙うULEは、DECTと全く同じ物理層で構成され「DECTとULEは、ほぼ同じ規格」(森川氏)という。「違いは、ULEには待機電力を低減する仕組みが追加されている点」とし、DECTの無線としての性能、仕様はそのままに、ULEにより無線チップセットの待機時消費電流を「チップメーカーによって異なるが、おおよそ1.5μAから2μAまで低減させられるようになった」(森川氏)
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