自動車メーカーのビジネスモデルは今後どうなる?:大山聡の業界スコープ(10)(3/3 ページ)
本連載で以前「車載半導体市場の現状と今後のゆくえ」について述べた。昨今の自動車業界が自動運転や電動化などで注目度が高まっていること、これに伴って車載半導体に求められる内容が変わりつつあること、などについて言及した。その中で、より注目すべき点として、自動車メーカー自身のビジネスモデルも変曲点を迎えつつあること、その要因がエレクトロニクス業界との融合であることを忘れてはならない。今回は、そちらについて述べてみたいと思う。
E:モーター、バッテリーは外部調達
最後に「E」について。二酸化炭素の削減を目的とした排ガス規制は、世界中の国と地域で推進されており、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車への移行は政策面からも後押しされて進んでいる。最終的には排ガスゼロの電気自動車(EV)に移行することも時間の問題だろう。充電インフラの整備がどのように進められるか、電力供給の問題はないか、考慮すべき項目はいくつかあるが、動力の主役はガソリンエンジンから電動モーターへと確実に推移しつつある。
これまで自動車メーカー各社は、エンジンの研究開発に心血を注ぎ続けてきたが、主役がモーターに代わると差別化が難しくなる。やや乱暴な言い方だが、電動モーターは原理が画一的で、スペックさえ決めてしまえばモーターメーカーに生産を委託した方がコストパフォーマンス面で有利になると思われるからだ。これを制御するために必要なパワー半導体も同様で、スペックさえ決めてしまえば、半導体メーカーから供給してもらうのが必然的な流れである。リチウムイオン電池についても、自社開発にこだわる自動車メーカーがまだ存在するものの、大手電池メーカーから供給してもらうことがほぼ主流になっている。つまり、EVに必要なキーデバイスは、全て外部からの調達に依存するようになる可能性が高いのだ。
外部依存する環境で、自動車メーカーはどのように生き残るのか?
ここまでの話を整理すると、今後の自動車に求められる「CASE」のうち、「C」はICT業者任せ、「A」はAIプロセッサメーカー任せ、「S」はサービス業者任せで新車の売上減の危険が伴い、「E」は差別化要因のエンジンがなくなってモーターメーカーと電池メーカー任せ、という構造が浮かび上がる。新車の売上が減りそうな中で、注目される要素は全て外部に依存する、そんな環境で自動車メーカーはどのように生き残っていくのだろう。
2018年1月、トヨタ⾃動⾞が⽶国ラスベガスで開催された「2018 International CES」で、移動や物流、物販など多⽬的に活⽤できるモビリティサービス(MaaS:Mobility as a Service)への注⼒を宣⾔したことは記憶に新しい。MaaSはトヨタに限らず、⼤⼿⾃動⾞メーカーがこぞって注⼒し始めた新分野で、⾃動⾞メーカーのビジネスモデルを変えようとする覚悟の表われと見ることもできる。
またAIプロセッサは、NVIDIAやIntelなどの半導体メーカーに実権を握られる可能性がある一方で、自動運転に必要な機能は「走る」「曲がる」「止まる」の基本動作に集約されるはずで、必ずしも汎用的なプロセッサ機能の全てが必要とは思えない。自動車メーカー各社でも自社開発できるのではないか、ここに今後の差別化要因が生まれるのではないか、などと筆者は考えている。いずれにしても、自動車メーカーのビジネスモデルは、今後大きく変わろうとしていることは間違いなさそうだ。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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