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チャージングダメージの障壁を乗り越えた日米の情熱湯之上隆のナノフォーカス(4) ドライエッチング技術のイノベーション史(4)(4/5 ページ)

1980年代初旬、プラズマを用いたエッチング技術は、チャージングダメージという大きな壁に直面した。だが、日米によるすさまじい研究の結果、2000年までにほぼ全ての問題が解決された。本稿では、問題解決までの足跡をたどる。

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4)日本から米国への知の伝達ルート

 筆者らは、AMATらの米エッチャーメーカーがハブとなって、米国の大学がチャージングダメージの研究を行うようになったと推測した(図7)。


図7:日本から米国への知の伝達ルート (クリックで拡大)

 まず、前述したように、1988年に日立の野尻のグループが、AMATらの米エッチャーメーカーにチャージングダメージの評価結果を直接伝えた。

 また、米エッチャーメーカーの日本支社が、1983〜1987年に日本人が行った三つの先駆的研究結果を、米本社に伝えたと考えられる。その際、特に日本で毎年開催されていたDPSの予稿集は、1980〜1990年代にドライエッチングの“影のバイブル”と呼ばれ、情報の宝庫として、日本支社を通じて米本社に送られていたと思われる。

 チャージングダメージの重要性を認識した米エッチャーメーカーは1989年に、その原理の解明や処方箋の研究を、UCBやStanford Univ.らの米大学に委託した。そのとき、前述した通り、SRCが大学に研究資金を助成した。その結果、1991年から、米大学から怒涛の勢いで論文が発表されるようになったのだろう。

5)日立の野尻氏の数珠つなぎの招待講演

 日立の野尻の数珠つなぎの招待講演も、チャージングダメージの問題の重要性を、米国などに認識させるのに一役買った(図8)。


図8:日立の野尻一男による数珠つなぎの招待講演。なお、所属は全て当時のものである (クリックで拡大)

 まず、1987年のSSDMの内容を知った京大の板谷教授(当時)が野尻に、1991年に京都で開催された「Japanese Symposium on Plasma Chemistry(JSPC)」への招待講演を依頼した11)

 このJSPCには、IBMのG.S. Oehrleinや、オーストラリア国立大学のR. Boswellが参加していた。この中のBoswellが野尻に、1992年にオーストラリアのメルボルンで開催された「Gaseous Electronics Meeting(GEM)」への招待講演を依頼した12)

 このGEMには、Bell研究所のR. Gottcho(現LamのCTO)や著書”Glow Discharge Processes”13で有名で元米エッチャーメーカーTegalのB. Chapmanが参加していた。その中のChapmanが野尻に、1992年に米国シカゴで開催されたAmerican Vacuum Society(AVS)に招待講演を依頼した14)。そして、野尻は1993年に、AVSの講演内容を米国論文JVSTに発表した15)

11) K.Nojiri, “Gate Oxide Breakdown caused by Charge Build-up during Dry Etching”, Abstracts of the 4th Japanese Symposium on Plasma Chemistry (JSPC-4), Kyoto, p.11 (1991).
12) K.Nojiri, “Microwave Plasma Etching Processes for Deep-Submicron ULSI's”, Abstracts of the 7th Gaseous Electronics Meeting, Melbourne (1992).
13) B.Chapman, ”Glow Discharge Processes”, John Wiley & Sons, New York (1980).
14) K.Nojiri and K.Tsunokuni, “Study of the Gate Oxide Breakdown Caused by Charge Build-Up During Dry Etching”, Extended Abstracts of the 39th National Symposium of American Vacuum Society, Chicago, p.375 (1992).
15) K.Nojiri and K.Tsunokuni, “Study of gate oxide breakdown caused by charge buildup during dry etching”, J. Vac. Sci. Technol., B 11 (5), p.1819 (1993).


 このように、日立の野尻がまるで宣教師のように、チャージングダメージの先駆的な研究結果を伝達していった。

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