チャージングダメージの障壁を乗り越えた日米の情熱:湯之上隆のナノフォーカス(4) ドライエッチング技術のイノベーション史(4)(5/5 ページ)
1980年代初旬、プラズマを用いたエッチング技術は、チャージングダメージという大きな壁に直面した。だが、日米によるすさまじい研究の結果、2000年までにほぼ全ての問題が解決された。本稿では、問題解決までの足跡をたどる。
チャージングダメージはどのように解決されたか
ムーアの法則を推進する上で必要不可欠となったドライエッチング技術は、1980年初旬に、チャージングダメージという壁に直面した。その問題は、次のように解決された。
- 1983〜1987年に日本人による三つの先駆的研究がトリガーとなった。
- 日本では、1990年頃から、DPSでチャージングダメージの研究発表がブームとなった。
- 米国でも同じ時期に、チャージングダメージの研究が盛んになったが、日本との違いは大学のアクティビティーの差にあった。
- 日本から米国へは、AMATなど米エッチャーメーカーがハブとなって、知が伝達された。
- 米エッチャーメーカーの日本支社が、“影のバイブル”と言われたDPSの予稿集を米本社に送り、日立の野尻のグループが直接、装置の評価結果を伝えた。
- 米エッチャーメーカーが米大学に研究を委託し、その資金をSRCがサポートした。
- 日立の野尻の数珠つなぎの招待講演も、チャージングダメージ問題の重要性の普及に一役買った。
このようにして、1980年初旬に発覚したチャージングダメージの問題は、2000年頃までに、ほぼ全て解決された。その過程で、日本人が三つの先駆的研究を行い、DPSの予稿集が“影のバイブル”と呼ばれ、日立の野尻が数珠つなぎの招待講演を行うなど、日本の技術者が大きく貢献した。
しかし、米国が大学の知を有効活用していることが、日本との大きな差であることが明らかになった。現在においても、日本の半導体産業は(恐らく電機産業など製造業全体でも)、大学の知を有効活用できていない。半導体産業を取り巻く課題は、年々難しさを増してきている。日本は、その課題の解決に大学の知をとことん利用する米国企業の姿勢を、見習うべきだろう。
さて次回は、チャージングダメージという壁を乗り越えたドライエッチングの最先端技術を紹介したい。
⇒(次回に続く)
筆者プロフィール
湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。
有門経敏(ありかど つねとし)Tech Trend Analysis代表
1951年生まれ。福岡県出身。大阪大学大学院博士課程(応用化学専攻)を修了後、東芝入社。2001年、半導体先端テクノロジーズ出向を経て、2004年、東京エレクトロン入社。技術マーケテイングと開発企画を担当。現在、Tech Trend Analysisの代表として産業や技術動向の分析を行っている。
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