外部磁場がなくても磁気渦を生成、理研らが発見:多体の磁気的相互作用に由来
理化学研究所(理研)らによる国際共同研究グループは、磁気渦の新しい生成機構を発見した。磁気渦を情報担体とする磁気記憶素子の実現につながる研究成果と期待されている。
磁気渦を情報担体とする磁気記憶素子の実現へ
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センタースピン創発機能研究ユニットの高木里奈特別研究員と関真一郎ユニットリーダー、強相関物性研究グループの十倉好紀グループディレクターおよび、北海道大学大学院理学研究院物理学部門の速水賢助教らによる国際共同研究グループは2018年11月、磁気渦の新しい生成機構を発見したと発表した。磁気渦を情報担体とする磁気記憶素子の実現につながる研究成果と期待されている。
電子は2つの性質を持つ。電気的な「電荷」と磁気的な「スピン」である。特に、磁気記憶素子は、スピンの集まりである磁気構造体を情報担体として利用する。この素子のさらなる高密度化や省電力化に向けて、近年は渦状の磁気構造が注目されている。ただ、バルク物質で渦状のスピン配列を実現するのは、これまで難しかったという。
そこで国際共同研究グループは、磁性金属である「Y3Co8Sn4」に着目し、単結晶バルクを作製した。スピン配列を詳細に分析するため、この試料をスイスのポール・シェラー研究所および、フランスのラウエ・ランジュバン研究所にある中性子ビームラインを用いて、中性子小角散乱実験を行った。
この結果、温度17K(約−256℃)以下で、磁場がない状態において6つのスポットパターンを観測することができた。試料面と平行な方向に磁場をかけたところ、強磁性状態になる直前まで、6つのスポットパターンは保持されていることが分かった。このことは、磁気渦が規則正しく整列して、三角形の格子を組んでいることを示すもので、Y3Co8Sn4は、磁場がない状態でも磁気渦を生成できることが明らかとなった。
続いて共同研究グループは、理論モデルを用いて六方晶の結晶格子上におけるスピン配列のシミュレーションを行い、磁気渦の起源を調べた。この結果、実験データとほぼ一致する結果が得られた。これは、磁性金属に内在する多体の磁気的相互作用という性質が、今回発見した磁気渦生成の鍵となっていることを実証したものだという。
共同研究グループによれば、今回発見した磁気渦の生成機構は、新物質だけでなく既存の物質でも得られる可能性があり、磁気渦を示す物質の探索や設計の指針になるとみている。
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