Baidu、ニューロモーフィックICを手掛ける企業に投資:スイスのaiCTX
スイスのスタートアップ企業であるaiCTX(エーアイコルテクスのように発音)は、Baidu Venturesからの150万米ドルのPre Aラウンドを完了した。
スイスのスタートアップ企業であるaiCTXは、Baidu Venturesからの150万米ドルのPre Aラウンドを完了した。この投資は、低消費電力の神経形態学的コンピューティング(ニューロモーフィック・コンピューティング)とプロセッサ設計に向けた商用アプリケーションを開発するためと、いわゆる「neuromorphic intelligence(神経形態学的インテリジェンス)」を実現するためのものである。センサー処理システムに組み込まれる低消費電力のエッジコンピューティング向けの技術だ。
aiCTXは、チューリッヒ大学の神経形態学研究所とETH Zurichで開発された神経形態学的コンピューティングハードウェアの技術をベースとして、2017年3月に設立された。aiCTXは、超低消費電力や超低遅延が求められるエッジコンピューティングの幅広い用途に向けて、“フルスタック”でカスタマイズされたニューロモーフィック・プロセッサを開発している。用途として、自律ロボット、モバイル機器や組み込み機器向けの常時オンのコプロセッサ、ウェアラブル型のヘルスケアシステム、セキュリティ、IoTアプリケーション、ネットワークエッジにおけるコンピューティングなどが挙げられる。
aiCTXで研究開発(R&D)担当シニアエンジニアを務めるDylan Muir氏は、EE Timesに対し、同社がエンド・ツー・エンドのニューロモーフィック専用IP(Intellectual Property)ブロック、ASIC、SoC(System on Chip)を、センサーやプロセッサと統合したフルカスタムのコンピューティングソリューションとして構築していると説明した。
同氏は「これによってサイズと消費電力を最小限に抑えることができる。他の大半のニューロモーフィックコンピューティングのアプローチでは、従来のデータパスを備えた機械学習ツールチェーンの一部分を置き換えるプラグ&プレイの代替策として、汎用ソリューションを提案するものだが、当社のアプローチは、それとは根本的に異なるものである」と述べた。
さらにMuir氏は「われわれは、Cortical computationの計算論的な神経科学モデルを実装するためのスパイキングニューラルネットワークやアルゴリズムソリューションを設計している。当社の技術は、20年以上にわたる皮質コンピューテーションの計算論的な神経科学モデルの研究開発に基づいている。この研究開発は、1990年代半ばに米国のカリフォルニア工科大学(CALTECH)で始まったもので、現在ではチューリッヒ大学およびETH Zurichのニューロインフォマティクス研究所で進められている」と述べた。
Baidu VenturesのCEOであるWei Liu氏は、aiCTXに投資した理由として、同社が独自の技術を持ち、プロダクトドリブンに力を入れているという点で、ニューロモーフィック分野に積極的に取り組む他の企業とは異なることを挙げた。Liu氏は「aiCTXは、単にコンピューティングファブリックを設計しているというだけでなく、完全な商用ソリューションを開発している」と述べた。
Liu氏のこの発言についてMuir氏に尋ねたところ、現在、他社が提供するニューロモーフィック・ソリューションは、デスクトップアプリケーションをターゲットとしており、一般的なデジタルロジック設計フローをベースにしているという。それとは対照的に、aiCTXの設計は、超低消費電力のミックスドシグナル/アナログ-デジタルVLSI回路などをベースとしているという。Muir氏は「われわれは、常時オンの超低消費電力型(ミリワット未満からミリワットのオーダー)ソリューションが求められるアプリケーションをターゲットにしている。例えば、クラウドに依存する必要のないモバイルシステムや組み込みシステムに用いられる、エッジコンピューティングなどだ」と述べた。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- “自動運転版Android”を作る、BaiduのApollo計画
2017年4月19日にApollo計画を正式に発表したBaidu。同社は、「Apolloは、完全にオープンな自動運転エコシステムである。自動車業界のパートナー企業や自動運転をサポートし、自動車向けソフトウェアおよびハードウェアシステムを組み合わせて、完全な自動運転車システムを迅速に構築することができる」と述べている。Apolloのパートナー数は既に100社に上っている。 - 中国Web大手、AI製品でAmazonに対抗心むき出し
AI(人工知能)を使った音声アシスタント機能において、中国のWeb大手であるBaiduとAlibabaが、AmazonやGoogleに対抗すべく、積極的に動いている。2017年7月初頭には、AI音声アシスタント機能や自動運転の開発に向けた取り組みが、BaiduとAlibabaから相次いで発表された。 - Armの独壇場にはならない? AI向けコア市場
CPUコアにおいて、多くの分野で高いシェアを誇るArmだが、AI(人工知能)エンジン向けチップのコアでは、独壇場とはいかないようだ。 - AIベンチマークの作成に着手、EEMBC
組み込み向けベンチマークテストの作成を手掛ける業界団体であるEEMBC(Embedded Microprocessor Benchmark Consortium)は、ネットワークエッジに設置されたデバイスで実行されるジョブのための機械学習ベンチマークを定義する取り組みを開始した。この取り組みは、先進運転支援システム(ADAS)に使用するチップ向けにEEMBCが2018年6月にリリースする別のベンチマークからのスピンアウトプロジェクトである。 - 中国、半導体産業に新たに3兆円を投資
中国が、半導体産業に新たに2000億人民元(約3.3兆円)の資金を投じるという。専門家の中には、「中国が技術の後れを取り戻すには、相当の投資が必要になるだろう」との声もある。 - AMD、7nmチップでIntelとNVIDIAに真っ向勝負
AMDは、利益が見込めるデータセンターをターゲットとする、7nmプロセスのCPUとGPUを発表した。Intelの14nmプロセス適用プロセッサ「Xeon」とNVIDIAの12nmプロセス適用「Volta」に匹敵する性能を実現するとしている。