「頭脳流出」から「頭脳循環」の時代へ、日本は“置き去り”なのか:イノベーションは日本を救うのか(30)(2/4 ページ)
今回は、「頭脳流出」と「頭脳循環」について、これまでの経緯と筆者の見解について述べたいと思う。アジアの「頭脳循環」に比べて、日本のそれは少し異なると筆者は感じている。
シリコンバレーで働く日本人
では、現在シリコンバレーにいる日本人はどのような人たちなのだろうか。彼ら/彼女たちがシリコンバレーに来た経緯や今後のプランについて、筆者の観察をシェアしたい。
シリコンバレー在住の人たちは幾つかのタイプに分かれる。戦前に日本各地から移民としてカリフォルニアに渡ってきた日本人(つまり日系アメリカ人)、またはアメリカ人男性と結婚してシリコンバレーに住んでいる女性も結構見かけるが、ここでは主にビジネスを動機として渡米してきた人たちを対象としよう。
日本人とシリコンバレーの関係で言うと、食うのに困ったわけではなく、何か新しいことをやりたいと思って、米国あるいはシリコンバレーに来た日本人としては筆者は最初の世代かと思う。筆者の場合はマッキンゼーのロサンゼルス事務所に勤めた後、1985年に独立し、当地シリコンバレーに拠点を設立して今に至っているが、その後日本人および日本企業がシリコンバレーに向ける目は、いろいろと変遷をたどってきた。
現在、シリコンバレーには北加商工会議所があり、およそ250の日本企業が会員企業となっている。だが、参加している人たちは基本的に、米国子会社や駐在員事務所の人たちだ。つまり、基本的には、いずれ日本に帰任する運命にある。実際に数年たつと日本に帰国するケースがほとんどだが、中には、家族がすっかりカリフォルニアの生活が気に入ったり、もしくは子供の学校事情を含め、シリコンバレーの生活に慣れて離れたくなくなったりする場合もある。こうしたケースでは、家族をシリコンバレーに残して、本人だけが帰任することになる。
このように、日本とアメリカに分かれて生活を始めた人たちは、いずれは日本かアメリカのどちらかに居を集約することになる。最初から帰任するつもりでシリコンバレーに来ている人たちの中には、やはり日本の本社に目を向けて仕事をしていることが多いように感じられる。
シリコンバレーには現在約3万人の日本人が住んでいるが、その大半は上で述べたように、米国子会社あるいは駐在員事務所に勤めている駐在員とその家族だ。いずれ帰任する運命にあるこのような人たちは、シリコンバレーで本当に好きなこと見つけたとしても、それをやれる自由度は低い。
ただ、シリコンバレーで長く働き続けたいという人たちも、もちろんいる。むしろ近年は、そのような人々が増えているのではないだろうか。
では、「いずれ帰任する予定の駐在員」以外では、どのような人がいるのだろうか。
まずは、日本企業の駐在員としてシリコンバレーに来たが、シリコンバレーのオープンな空気に触れ、最終的に日本企業を辞めてシリコンバレーに残った人たちがいる。自分の意思で自由度を手にした人たちだ。
次に、個人の資格で米国に留学すると卒業後1年間、有給で仕事をできるプログラム(OPT:Optional Practical Training)を活用してシリコンバレーの企業で働き、そのままその企業に雇用されて就労ビザを取得し、働き続ける人たちがいる。このような日本人は基本的に米国定住を希望しているので、永住ビザ(グリーンカード)取得を目指す場合がほとんどだ。
同じ米国留学でも、企業の留学プログラムで来ている場合は、企業のおカネで来ているのでいったんは日本に帰国する必要がある。もっとも、日本経済の状況や、留学させても結局退職してしまう人たちも多いので、留学プログラムを大幅に縮小あるいは中止した企業も多いのは事実だ。
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