政府の地雷? 「若者人材育成」から読み解くひきこもり問題:世界を「数字」で回してみよう(54) 働き方改革(13)(8/10 ページ)
今回のテーマは「働き方改革」の「若者人材育成」です。「若者人材育成」をよく読み解いてみると、その根っこには、深刻な“ひきこもり”問題が存在していることが分かります。
「ひきこもり」のインフラを作り出したのは、われわれなのか
ところが、この「ひきこもり」は、単に「ひきこもれば良い」というものではありません。「ひきこもり」を貫徹するためには、どうしても2つのモノがそろっている必要があるからです。「支援者」と「武器」です。
言われてみれば、当然のことのように聞こえるかもしれませんが、「ひきこもり」に「支援者」が必要と気がついたのは、厚生労働省のこの資料の「モデル事例」を読んでいた時のことでした(もちろん、この支援が「甘やかし」とかいう、単純な話ではないことは、この事例を読むだけでも分かります)。
もう一つは「ネット」という武器です。「ひきこもり」というのは、基本的に「自己防衛のための逃亡」です。外界の敵から自分を守るためには、「ひきこもり」というのは有効な手段なのですが、たった一人だけ、「引きこもり」では対抗できない敵がいます。
「自分」です。「自分が自分を責める」ということからだけは、どうしても、逃げることができないのです。
そのような時間を1秒たりとも作らないためには、自分の意識を別の世界に置き、かつ、それを維持し続けなければなりませんが、これは、相当な体力と集中力を要するはずです。『自我が消されるほどに夢中になれるもの』があれば良いのですが、そのようなものがあるのであれば「ひきこもり」をする理由もなかったでしょう。
が、それをやすやすと提供できる夢のようなものがあるのです ―― 「ネット」です。
インターネットにつながったパソコンは、ネットゲーム(ネトゲ)、マンガ、アニメなどの各種のコンテンツを果てしなく提供し、自分の素性を開示せずに無責任な発言を無限に垂れ流すことができ、そして、1日十数時間もの膨大な時間、実存する自分との対決を回避し続けることを可能とする「魔法の箱」です。
今、私は、一つの"不愉快な"仮説に思い至っています。
「ひきこもり」のインフラ(基盤)を完成させてしまった当事者は、実のところ、私たちのようなネットワークのエンジニアではなかったのだろうか ―― と。
信じられないかもしれませんが、私は、IETFの標準化提案を行っていたころ(著者のブログ、「世界中の人が意見を交換できる世界が完成すれば、世界は一つとなり平和になる」と、本気で信じていたのです*)。
*)先日、この話を後輩にしたら、鼻で笑われました。
私には、人を自殺に追いやる裏サイトや、悪質な匿名メッセージや、一つの国の社会システムを混乱させるサイバー攻撃や、ましてや「ひきこもりのインフラ」を作るつもりなど、全くなかったのです。
今、私は、「ネットのない社会の方が、今よりもずっと良い世界だったのではないだろうか」と考え込むことが多くなりました(関連記事:「メイドたちよ、“意識高い系”を現実世界に引き戻してやれ!」)。
「ひきこもり」は、たった一人の戦争
それはさておき。
「ひきこもり」を憎悪する人は多いようですが、いろいろ調べていくと、「ひきこもり」とは、脱出口が見つけられずに、いつまでも暗闇の中をさまよい続け、途切れることなく続く、苦痛と恐怖の時空連続体 ―― 少なくとも『憎悪』の対象足りえない ―― ということは間違いなさそうです。
先に述べたように、「自分が自分を襲ってくる」ということを含めて、「ひきこもり」は、少なくとも3人の刺客と「たった一人の戦争」を果てしなく続けなければならないものだからです。
現時点において、この問題を一気に解決する方法は見つかっていません。
第一、ちょっと調べたくらいの私が解決できるくらいなら、この問題は、とっくに解決しているはずですし、政府だって、「働き方改革実行計画」に、『「ニート/ひきこもり向け」の働き方』という項目を掲げていたことでしょうし ―― 何より、苦しみながら「ひきこもり」を続けざるを得ない人たちを救出することができたはずです。
つまり、結局のところ、私には、「ひきこもり」を現象として理解できても、解決方法が全く分からないのです。今の私に言えそうなことは、以下のような陳腐で空虚な、そして、何の役にも立たない提言だけです。
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