ブラック企業の作り方:世界を「数字」で回してみよう(55) 働き方改革(14)(4/9 ページ)
今回取り上げるのは「ブラック企業」です。特にここ数年、企業の規模や有名無名に関係なく、“ブラック企業の実態”が報道でも取り上げられていますが、そもそもなぜ「ブラック企業」が存在してしまうのでしょうか。そして、ブラック企業を撲滅することはできるのでしょうか。
Googleトレンドに見る、4つのピーク
上図は、"Googleトレンド"を使って、見出しに「ブラック企業」という言葉を有する記事数(の比率)を調べてみたものです。2005年をスタートに毎年4月にピークなるという傾向が観測されます。また、ピークが特に高い4つの年で発生した事件を調べてみました。
(1)2005年:死者107人、負傷者562人の大惨事を発生させたJR福知山線脱線事故
(2)2010年:アジア太平洋資料センター主催の「ブラック企業大賞」の開始
(3)2013年:過労自殺をした企業の社長の対応(面談/謝罪の拒絶)で大きくクローズアップ
(4)2016年:大手広告代理店の新人女性過労自殺事件で大きくクローズアップ
私は、上記(3)のいわゆる"ワタミ事件"のことを覚えているのですが(当時、ワタミは「ブラック企業」の代名詞のように報道されていた)、特に印象的だったことが、その企業の代表取締役だった人が、一貫して『謝罪を拒絶し続けていた』ということでした。
人間は、「自分が悪いと思っていないことは謝罪できない」生き物です(もちろん、戦略的に心にもない謝罪を演出することはできますが)。特に、経営責任者が、自分の経営する企業の方針に信念と正義を持っている場合、心にもない謝罪は、自分の企業の経営の瓦解を意味します ―― つまり、「私の会社は断じてブラック企業などではない」と信じていた、と考えるのが自然です。
前述の「ブラック企業の特徴」の項目を使って、この企業経営者の「言い分」を想定してみました。
大切な子どもや伴侶を過労死自殺に追い込まれた遺族から見れば「ふざけるな!」と首を鷲づかみにして、怒鳴りたい気持ちになるとは思いますが ―― 一応、筋は通っています。
そして、経営者が、上記の言い訳(本人たちにとっては「信念」)を、確信的に信じているとすれば、もう、これは、どうしようもありません。従業員たちにできることは、「無事に脱出(退社)する」か、「壊される」「殺される」まで働くしかありません。
「ブラック企業」はなぜ、業務停止しないのか
過労死自殺事件というのは、その経緯はどうあれ、「その会社による従業員の殺害事件」と見なしても良いと思います*)。
*)なお、本コラムでは「本人の資質(フィジカル、メンタルの弱さ)」に因る、の理論は採用しません。これは「いじめ」を必要悪として肯定する理論と同じであるからです。また、そもそも、企業には、社員として雇用した以上、どんな資質の従業員であれ適正に保護する義務(職場環境配慮義務)があります。
法律による罪や罰には、理想はどうあれ、その内容に「報復」の意図が含まれて良いと思います。
『従業員を過労で殺した会社が、なぜ業務停止もせずに、今なお、のうのうと営業を続けることができるのか』 ―― あなたは、そんな風に考えたことはありませんか?*)
*)これは真面目な質問ですが、「そんな風に考えるのって、私だけですか?」
そこで、「会社(法人)の犯罪」が、どう「報復されて(×裁かれて)いるのか」を真面目に調べてみました。
一言で言えば、『法人は人を模した法上の概念にすぎない。だから、法人に死刑を宣告することはできない』が答えになります(当たり前の話ですが)。
基本的には、どんな官庁でも、特定の企業の業務を無期限停止させられるような権限はなく、指摘の改善命令を出し、その企業が再発防止策を策定し実施していれば、官庁は業務の再開を認めざるを得ません。
もちろん、私たちが義憤に基づいて、その企業の業務を(合法的に)妨害し、銀行の融資を全面停止させ、株価を暴落させることで、その企業を倒産に追い込むことは、理屈では可能です。
しかし、その結果、その企業の社員全員が職を失わせることが、私たちの求める「報復」かと問われれば、それは違うような気がします。
では、私たちは、一体「誰」に報復をしたいのでしょうか。社訓を規定した社長? 怒号や暴力を振った現場の上司? 弱っている同僚を見過した社員? その全員?
社長と現場の上司は、「死刑」とは言わないまでも、「半殺し」にしても良いと思うけど、我が国では、イスラム法の「むち打ち」に相当するような刑罰は法定されていません。
それ以上に、私たちの、事件に対する忘却の速度が速い ―― もう光の速度より速いんじゃないか、と思うくらいです。あの時の数え切れないほどの憤怒の炎上ツイートは、一体どこに消えたのか、と思うくらいです(ぶっちゃけ、私は、電通の2015年12月25日の事件をすっかり忘れていましたし、多分、あなたも忘れていたはずです)。
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