ブラック企業の作り方:世界を「数字」で回してみよう(55) 働き方改革(14)(5/9 ページ)
今回取り上げるのは「ブラック企業」です。特にここ数年、企業の規模や有名無名に関係なく、“ブラック企業の実態”が報道でも取り上げられていますが、そもそもなぜ「ブラック企業」が存在してしまうのでしょうか。そして、ブラック企業を撲滅することはできるのでしょうか。
「ブラック企業」を生む? いびつな愛
それにしても、です。これだけ「ブラック企業」についての数多くの文献資料がリリースされており、そして、その傾向と対策が山ほど開示されているのに、「ブラック企業」事件が、一向に消えていかないのはなぜなのでしょうか。
そこで、次に私が検討したのは、「ブラック企業」の内側 ―― 使用者(社長、上司)と従業員 ―― から見えている(であろう)、ブラック企業の特徴です。
私の仮説は、「ブラック企業」を「ブラック企業」足らしめているのは、彼ら自身なのではないか、ということです。
仮説の域を出ませんが、ブラック企業の業務に従事している人は、自分がブラック企業でブラックな仕事をしているという意識が「ない」のではないかと思うのです。
上記の表にはブラック企業の7つの特徴を記載していますが、これを、客観的に見ることができず、"善意"と"無知"のフィルターにかけることで(加えて、過重労働による疲労や思考停止によって)、全て「素晴らしいこと」に変換することが可能なのです。
ここまで極端なケースは珍しいとしても、自分を狂わせないために、自分の境遇や行動を正当化することは普通にあります(私だって、通常業務で不愉快なことがあっても、その期間が通り過ぎるのを待つ、てなことは普通にやっています)。
これは、仮説の域を出ませんが、ほとんどのブラック企業の経営者は
―― これは「ブラック」ではない。「愛」だ。
と信じているのではないかと考えています。特に2013年のワタミ事件の経過を見つづけていた時には、それを強く感じました。
ともあれ、このような"善意"と"無知"の連鎖によって、めでたくブラック企業は、今日も営業を続けていける訳です。私たちが、どれほど「外側」から非難の声を発し続けたとして、「内側」の人達にその声は届かないのです。
ブラック企業の“中の人”をプロファイリングしてみる
まあ、それにしても、100億万歩譲って「愛」が成立したとしても、なんとも救い難い歪(いびつ)な愛です。
このような歪な愛を育める人間とは、どのような人間なのだろうか、と、ブラック企業の内側の人のプロファイリングを試みてみました。
まず、#1に示すように、彼らには基本的な法律の知識が絶望的にないとしか思えません。我が国が法治国家であり、法律は会社規則の上位に位置することすら知らないのではないかと思えるほどです。
また#2に示すように、世間の価値観は日々変わり続けています。バブル期前の社会と比べて、現時点の社会は、「ドラゴンや魔法使いが出てくる異世界」くらい違う、という認識がないと思えます。また、社会の問題を自分の問題として捉えられず、「ひとごと」のような気持ちでいるようにも思えます。
#3のように、彼らは論理的な思考や説明する能力にも欠けているように思えますし、#4のように強みとなる技術、知識、ノウハウがなく、かつ、その必要性を認識していないようにも思えます。
決定的なのは#5です。「ここで通じなければ、どこにいっても通じないよ」という言葉で、社会にする経験値絶無の新卒社員を恫喝(どうかつ)する上司。そして、「チームの仲間に迷惑を掛けてもいいのか」と言われれば、「そんなこと、私の知ったことか」と反論することもできないほどの善良で無知な新卒社員。
ブラック企業を成立させるためには、このような資質を有する使用者と従業員の両方がいて、初めて成立するのです。これは、ある意味、「奇跡のマッチング」のようにすら思えます。
もちろん、本人の固有の資質だけではなく、過酷で劣悪な労働環境によって、心と体を蝕まれている状況に配慮しなければなりませんが、それでも、なお、私は叫びたくなるのです。
―― 殺さないためにも、殺されないためにも、ちゃんと勉強しよう!
と。
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