ブラック企業の作り方:世界を「数字」で回してみよう(55) 働き方改革(14)(7/9 ページ)
今回取り上げるのは「ブラック企業」です。特にここ数年、企業の規模や有名無名に関係なく、“ブラック企業の実態”が報道でも取り上げられていますが、そもそもなぜ「ブラック企業」が存在してしまうのでしょうか。そして、ブラック企業を撲滅することはできるのでしょうか。
「ブラック企業」でも起業できる
さて、当然ですが、新卒社員にもコストが発生します。業務上のコストは言うまでもありませんが、ここは、単に給与だけをコストとして考えます。企業は、新卒社員に給与を人数分支払わなければなりません。そして、ブラック企業がもうけるためには、新卒社員に給与を超える利益を生み出してもらわなければなりません。
ブラック企業がもうける戦略は明快です。式(8)の値を最大化することです。ブラック度変数αの値をできるだけ大きくすること、つまり「新卒社員を死ぬほど働かせる」―― これに尽きます。
ところが、ブラック度変数αを大きくすると、離職者が増えます(当然です)。ここにブラック企業の経営戦略が入り込む余地が発生します。
といっても、やることは簡単です。利潤を最大化すれば良いのです。
利潤π とは、新卒社員による利益Rから、新卒社員の費用(給与)を引いたものです(式(9))。これを最大化するポイントとは、利潤πをブラック度変数αで微分してゼロになるポイントを導き出せば良いのです*)。
*)高校数学で習った(ですよね?)「極限値」です。
式(10)(11)に至る経緯は、寺崎先生の論文をご参照ください(江端も何枚も紙に書き出しつつ、式のチェックを行いました)。
細かいことを吹っ飛ばして、結論から申し上げれば、(1-1/e)(1-β) < 0が成立すれば、ブラック企業の経営は成り立つということです。
つまり、運営する企業の内容に応じて、
・新卒社員を大量に雇用して大量に離職者を出す戦略(ケース#1)でも、
・新卒社員の退社をさまざまな手段によって妨害する戦略(ケース#2)でも、
企業が利益を得ることは可能である、ということであり、企業の数理モデル上は、
―― 「ブラック企業で「起業」する戦略」は存在する
ということです。
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