ブラック企業の作り方:世界を「数字」で回してみよう(55) 働き方改革(14)(6/9 ページ)
今回取り上げるのは「ブラック企業」です。特にここ数年、企業の規模や有名無名に関係なく、“ブラック企業の実態”が報道でも取り上げられていますが、そもそもなぜ「ブラック企業」が存在してしまうのでしょうか。そして、ブラック企業を撲滅することはできるのでしょうか。
「ブラック企業」を起業してみる
ここからは後半になります。
後半は、「ブラック企業を「起業」する戦略」というテーマで進めていきたいと思います。ブラック企業を理解するためには、(頭の中で)ブラック企業を実際に作ってしまうのが、一番てっとり早いからです(冒頭の“仮想敵国”の話と同じです)。
前半では、「なぜブラック企業は潰れないのか」について、(1)法律や制度で潰す手段がないこと、私たちの忘却速度が速すぎること、(2)内側の人から見たブラック企業の見え方が違うことおよび、(3)内側の人の資質とマッチングに因るものであること、について論じました。
しかし、これらの全てが、正しかったとしても、「新卒社員のほとんどが離職する企業」や「新卒社員を恫喝や『やりがい』という虚構で働かせ続ける企業」が存続することは、私には、正直信じられないのです。物理法則(エネルギー保存法則等)に反しているような「気持ち悪さ」を感じずにはいられないのです。
ブラック企業を成立させるための、条件は何か ―― 。
これを調べるために、ネットでいろいろな文献を探し回り、ようやく一本の論文にたどり着くことができました。それが、寺崎克志先生のご執筆された論文「ブラック企業の経済学」(参考)です。
寺崎先生は、ブラック企業の経営を考える上で、労働強度α、離職弾力性βという概念を新たに導入されて、このモデル化を試みておられました。
今回、私は、本論文の第2章と3章の数式を自分でレビューしながら、さらに、自分なりの解釈を試みました。
もし本論文の解釈が寺崎克志先生のご意図と異なることがあれば、その責任は全て、この江端にありますので、批判は甘んじてお受けしたいと思います。
まずは、超基本的な企業モデルを示します。
式(1)は、一言で言えば、150万円の車(商品)を10台売れば、1500万円の売上になるということだけのことです。
式(2)は、商品またはサービス(商品など)の値段が上がれば、売れなくなることを示しています。この線の傾きが急であるということは、他社が同じ製品を製造販売することが、比較的簡単で、価格競争になりやすいということで、安売りできる環境を作ることができれば、競争に勝てるということです。逆に、この線の傾きが緩やかであるということは、他社には同じ製品を作るのが難しくて、価格決定に対して優位な立場にあることを示します。
式(3)の「需要の価格弾力性」は、需要の変化率を価格の変化率で割ったものです。需要の価格弾力性が1より大きいとき、価格の変化に需要が敏感であると判断でき、需要の価格弾力性が1より小さいとき、価格が変化してもあまり需要量が変わらないと判断できます。
次に、寺崎先生の提唱する労働強度α、離職弾力性βについて説明します。僭越(せんえつ)ながら、私は、労働強度αをその企業における「ブラック度変数α」と、離職弾力性βを「ブラック離職率関数β(α)」と称呼させて頂くことにしました。私の頭でも理解できるようにするためです。
「ブラック度変数α」は、簡単にいうと新卒社員を何人分働かせることができるか、ということです。α=2.0なら2人分働かされるという意味になります。
これに対して、式(4)の「ブラック離職率関数β(α)」は、ブラック度に対する離職の程度を示します。ブラック度が大きくなればなるほど、離職者が増えるのは当然です。β(α)は、それを定量化する式になります。この式を使った数値の例を以下に示します。
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