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AI戦略、NXPの立ち位置とは担当部門ディレクターに聞く(1/2 ページ)

NXP Semiconductorsにおける、機械学習分野の開発は現在、どのようになっているのか。同社のAI戦略・パートナーシップ部門担当ディレクターを務めるAli Osman Ors氏に聞いた。

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「AI開発に着手していない?」

 NVIDIAやIntel、Qualcommなどの巨大半導体メーカーは、AI(人工知能)分野における自社の成果や技術能力を宣伝するためのチャンスを逃すようなことはめったにしない。

 しかし、NXP Semiconductors(以下、NXP)がAI分野について発表した内容は、明瞭さに欠けるものだった。

 NXPのCEOであるRichard Clemmer氏は2016年10月に、「当社は、機械学習分野の技術開発にはまったく着手していない」と発表し、大きな衝撃を与えた。これ以来、同社のAI戦略は謎に包まれてきた。世界をリードする車載チップメーカーであるNXPは、このADAS(先進運転システム)/自動運転車の時代に、機械学習の社内開発を行わずに、一体どのように市場をリードしていくつもりだったのだろうか。

 Clemmer氏は、「QualcommによるNXP買収が完了すれば、NXPはAI分野において、潜在的な利益を生み出せるようになる」と述べていた。しかし、そのQualcommは2018年夏にNXP買収計画を撤回。NXPは、QualcommのAI技術へのアクセスを失ってしまった。


NXPのAli Osman Ors氏

 筆者は2019年5月27日の週、技術顧問サービスを手掛けるVision Systems Intelligence(VSI Labs)が米国ミネソタ州ミネアポリスで開催した自動車関連のイベントにおいて、Ali Osman Ors氏にばったり会った。この時、同氏から手渡された名刺の肩書が、「NXPのAI戦略・パートナーシップ部門担当ディレクター」と記されていたのを見て、非常に驚いた。

 筆者はOrs氏に、「NXPの機械学習分野の社内開発は、現在どのようになっているのか」と質問した。

 同氏は最初に、Clemmer氏の2016年の発言までさかのぼり、「Clemmer氏がこの時言いたかったのは、NXPが当時、機械学習向けに開発されたGPUやTPU(Tensor Processing Unit)、各種アクセラレーターなど、高性能かつオープンなコンピューティングレベルのハードウェアの他、データセンター向けサーバなども、まったく手掛けていなかったということだ。NXPは当時から現在まで、自動車やIoT(モノのインターネット)などの組み込みシステム分野に注力してきた。われわれの目標は、“機械学習を適用する意味”がある、分野を特定することだ」と述べている。

表に出てこなかった「CogniVue」

 Clemmer氏はこれまで、NXPが、旧Freescale Semiconductor(以下、Freescale)を買収したことで獲得した機械学習分野の専門家たちを集め、小規模なチームとして「CogniVue」を設立していたことについては、一切触れてこなかった。

 画像認識IP(Intellectual Property)ディベロッパーであるCogniVueは、カナダのオタワに拠点を置く。同社は2015年9月に、Freescaleによって買収されている。CogniVueは、FreescaleのADAS用SoCソリューションにおける主要なビジョンIPパートナーとして、重要な役割を担ってきた。Freescaleは、CogniVueのIPと開発チームを社内に確保したことにより、自動車向けとして最適なIPをゼロから開発し、セーフティクリティカルなADASをはじめ、最終的には自動運転車市場全体の進展を先導していきたい考えだ。

 CogniVueの所有権は、わずか数カ月の間にFreescaleからNXPへと変更されたため、約30人のメンバーから成るオタワの開発チームは、これまで知名度が低いままだった。

 Ors氏は、実はCogniVueのエンジニアリングディレクターを務めていた。同氏は2015年秋に、Freescaleに移籍し、車載用マイコン/プロセッサ部門担当ディレクターに就任する。同氏はそこで、自動運転アプリケーションのAIに向けた組み込みプロセッサ技術開発において、ハードウェア/ソフトウェア/システムチームの責任者を務めた。また同氏は、ニューラルネットワークや深層学習(ディープラーニング)などの研究開発において、産学連携を主導している。

 Ors氏は2018年1月に、Automotive AI Strategy and Partnerships, Automotive Microcontrollers and Processors(自動車AI戦略/パートナーシップ・車載用マイコン・プロセッサ)部門の担当ディレクターに就任する。そして現在は、車載用マイコン・プロセッサ事業部門において、ADAS/AV(Automated Vehicle)製品シリーズ向けのAI/自動運転に関する全体的な戦略の策定を手掛けているという。

 AIの中でも、特に深層学習は、高性能自動運転車の開発を進めている技術および自動車メーカーの間でし烈な競争が繰り広げられる中で、中心的な役割を担っている。

 しかし、NXPのADAS/AVチップソリューション向けのアプローチには、ライバル企業と比べて根本的な違いがある。NXPにとって、AIは非常に重要だが、それだけでは終わらない。

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