メモリ不況の夜明けは近い、市場動向から見たDRAMとNANDの挙動:湯之上隆のナノフォーカス(14)(3/3 ページ)
世界半導体市場統計(WSTS)のデータを用いて市場動向をグラフにしてみたところ、両者の挙動が大きく異なることを発見した。本稿では、その挙動を示すとともに、その理由を考察する。その上で、二つのメモリ市場の未来を展望する。
“シリコンサイクル”が無いNAND
いま一度、図2に戻ってNANDの市場動向を見てみよう。2016年までのNANDには、DRAMのような“シリコンサイクル”がない。ここで、DRAMと同じように、NANDの出荷額と出荷個数の年次推移のグラフをつくってみると、NANDの出荷個数は、ほぼ直線的に増大していることが分かる(図5)。ただし、「スーパーサイクル」に突入した2016年を境に、その成長率が鈍っているように見える。
まず、2000年から2016年にかけて、出荷額も出荷個数も単調に増大している理由を考えてみた。NANDは、1987年に東芝に在籍していた舛岡冨士雄氏が発明した不揮発性メモリであるが、1990年代に東芝が事業化した頃には、アプリケーションが存在しなかった。
ところが、2000年になると、デジタルカメラ、Appleの音楽プレーヤー「iPod」、携帯電話機など、次々と市場規模の大きなアプリケーションが見つかった。さらに、2007年に「iPhone」が発売されてスマートフォンの時代を迎え、加えてPCやサーバのHDDをSSDが置き換えるようになると、より一層、市場規模が大きくなっていった。
つまり、NANDは、アプリケーションを開拓しながら、その市場規模が拡大していったため、常に需要が供給を上回っており、DRAMのような価格暴落に見舞われることが無かったのではないか。または、価格が下落しても、次々と現れるアプリケーションによって需要は拡大し続けたため、出荷額も出荷個数も直線的に増大していったと思われる。
NANDにもシリコンサイクルが出現
ところが、2017年以降、NANDの出荷個数の成長がやや鈍っている。これは、NANDが2次元から3次元に移行したことに原因があると考えている。というのは、3次元NANDの製造技術が非常に難しいため、歩留りがなかなか上がらず、計画通りに、3次元NANDを出荷することができなかった可能性が高いからだ。
また、DRAMと同様、NANDも、2016年以降に出荷額が飛躍的に成長したが、2018年後半から不況に突入した。この原因は、DRAMと同じく、Intelのプロセッサの供給不足によると考えている。つまり、NANDの供給が需要を上回ってしまったため、価格暴落が起き、出荷額が激減した。結果的に、NAND史上、初めてシリコンサイクルが出現したことになる。
DRAMとNAND市場の未来展望
DRAMは、実質的に3社に絞られたメモリメーカーが、今後も“暗黙の談合”を行いながら、出荷個数をあまり増やさず、DRAMビジネスを行っていくと思われる。しかし、今回の「スーパーサイクル」のようなアクシデントは、今後も起きるだろう。従って、DRAM市場は“シリコンサイクル”を繰り返すと思われる。
また、中国がDRAMに参入する動きがある。これについては、米国がJHICCをエンティティー・リスト(EL)に加えて、Applied Materials、Lam Research、KLAなど米国製の製造装置の輸出を禁止したため、DRAM開発や生産は頓挫した。
つまり、中国製DRAMが市場を破壊することは、米国が防波堤となって防いでくれている。しかし、未来永劫、この防波堤が機能する保証はない。中国は、製造装置や材料の内製化も進めており、そのでき次第では、中国製DRAMが世界を席巻する可能性もある。
一方、初めて“シリコンサイクル”を経験したNANDは、DRAMと同様に、需要と供給のバランスによって、市場が大きく変動するメモリになった。“大人のメモリ”になったと言ってもいいかもしれない。従って、NANDの出荷個数は今後も増大していくと思われるが、出荷額は周期的に変動すると予想される。
要するに、DRAMもNANDも、それに関わる装置メーカーや材料メーカーも、いちはやく“シリコンサイクル”を察知するために、より一層、マーケティングが重要になってきたと言えるだろう。
筆者プロフィール
湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。
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