ハイテク系ベンチャーを正当に評価できない? 非効率な日本の新興市場:イノベーションは日本を救うのか(34)(3/3 ページ)
これまで、日本のベンチャー企業とベンチャーキャピタルが抱える課題を見てきた。今回は、ベンチャー企業が上場を目指す場合に欠かせない重要な要素、資本市場における根深き課題を取り上げたい。
繰り広げられている“国内マザーズゲーム”
3つ目の課題として、「『グローバルなベンチャーを目指した新興企業に資金調達の道を開く』という東証の高い理念に基づいて設立された故に上場しやすい」というマザーズの特性を適正に活用しようとしないベンチャーキャピタルが(VC)多いことが挙げられる。これは、前回の記事では取り上げなかったが、VC側の問題でもある。
東証一部は、世界的に見ても優れた市場といえる。だが新興市場であるが故の宿命なのか、東証マザーズでは、1999年11月に開設されて以来、内向きな小規模取引が続いているだけなのである。前出の瀧口氏に言わせれば「東証の理念から離れた、内向きな“国内マザーズゲーム”を見るケースがある」となる。
ベンチャー企業が「海外で頑張るぞ」と意思表明しても、多くのVCが「海外進出なんてとんでもない!」と否定する。せっかくマザーズで上場できるのに、成長に時間を要する海外に進出されると困ってしまうのだ。”国内マザーズゲーム”とは、まさに言い得て妙である。
結局のところ、まだ日本の資本市場の一部が未熟なのだろう。瀧口氏によれば、日本の資本市場は同氏が野村證券を退職した20年前に比べ、今も変わっていない部分が多いという。
さて、冒頭にお伝えしたように、ベンチャー企業のエグジットには他社による買収もある。次回以降は、大企業による買収を含め、日本のイノベーションエコシステムという観点から議論を進めたい。
⇒「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」連載バックナンバー
Profile
石井正純(いしい まさずみ)
日本IBM、McKinsey & Companyを経て1985年に米国カリフォルニア州シリコンバレーに経営コンサルティング会AZCA, Inc.を設立、代表取締役に就任。ハイテク分野での日米企業の新規事業開拓支援やグローバル人材の育成を行っている。
AZCA, Inc.を主宰する一方、1987年よりベンチャーキャピタリストとしても活動。現在は特に日本企業の新事業創出のためのコーポレート・ベンチャーキャピタル設立と運営の支援に力を入れている。
2019年3月まで、静岡大学工学部大学院および早稲田大学大学院ビジネススクールの客員教授を務め、現在は、中部大学客員教授および東洋大学アカデミックアドバイザーに就任している。
2006年より2012年までXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所(2007年会頭)、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。
2016年まで米国 ホワイトハウスでの有識者会議に数度にわたり招聘され、貿易協定・振興から気候変動などのさまざまな分野で、米国政策立案に向けた、民間からの意見および提言を積極的に行う。新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 新興企業の成長に不可欠、今こそ求められる“真のベンチャーキャピタリスト”
今回は、日本のベンチャーキャピタルが抱える3つの課題を掘り下げたい。日本のベンチャーキャピタルの“生い立ち”を振り返ると、なぜ、こうした3つの課題があるのかがよく分かってくるだろう。 - 「頭脳流出」から「頭脳循環」の時代へ、日本は“置き去り”なのか
今回は、「頭脳流出」と「頭脳循環」について、これまでの経緯と筆者の見解について述べたいと思う。アジアの「頭脳循環」に比べて、日本のそれは少し異なると筆者は感じている。 - RISC-V活用が浸透し始めた中国
今回紹介する、SiPEEDのAI(人工知能)モジュールには、RISC-Vプロセッサが搭載されている。RISC-V Foundationには中国メーカーも数多く参加していて、RISC-Vの活用は、中国でじわじわと浸透し始めている。【訂正あり】 - 貿易摩擦で中国半導体業界の底力が上がる? 座談会【後編】
IHSマークイットジャパンのアナリスト5人が、米中貿易戦争がエレクトロニクス/半導体業界にもたらす影響について話し合う緊急座談会。後編では、メモリとHuaweiをテーマに、中国の半導体業界の今後について予想する。 - 米中が覇権を争う今、日本企業は中国と提携するチャンス
米国と中国の通信インフラを巡る覇権争いが過熱している。そうした中で、日本企業は、米国の方針に追随するしかないのだろうか。 - 送信IC+ISPにCISまで組み合わせて付加価値を出す
監視カメラ/車載カメラ向けの長距離伝送用チップを手掛けるTechpoint。レシーバーICに強みを持つ同社だが、差異化しにくいトランスミッターICでは、ISP(Image Signal Processor)や、現在開発中のCMOSイメージセンサー(CIS)まで組み合わせて付加価値を高めようとしている。