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5G対応スマホにみる大手半導体メーカーの“領土拡大”この10年で起こったこと、次の10年で起こること(38)(2/3 ページ)

今回は、既存のスマートフォンに取り付けることで第5世代移動通信(5G)対応を実現するアンテナユニット「5G moto mod」に搭載されるチップを詳しく見ていく。分析を進めると、Qualcomm製チップが多く搭載され、大手半導体メーカーの“領土拡大”が一層進んでいることが判明した――。

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着々と領土を広げるQualcommのチップセット

 Qualcommは2000年代後半にSnapdragonというチップセットをリリースした。初代Snapdragonはわずか3チップから構成されるものであった。3チップとは、アプリケーションと通信用ベースバンドの2つのプロセッサを統合した「1チッププロセッサ」(ここに各種端子やメモリ、カメラ、USBなどの機能が搭載される)、通信用の「トランシーバー」、電源電圧などを最適化するための「電源IC」の3つであった。プロセッサのみデジタル回路で後者2つはアナログ回路である。スマートフォンというと内部はデジタル処理のみを行っているように思われがちだが、実際には多くのアナログ回路で構成されている。Qualcommは上記3チップ構成でSnapdragonをプラットフォームとしてスタートさせたが、世代を経るたびに他メーカーチップで構成されるチップをチップセットに自社製にして組み込み、“領土”(スマートフォンのみならず多くの機器では他社チップ機能を取り込むことがチップセットの強化になる)を広げていく。まずは長時間での高音質でのオーディオ再生を可能とするオーディオコーディック、電池の充電コントロール(Quick Charge)を行う電池用IC、通信のトラックキングを行うチップなどプラットフォームの成熟のたびにチップ種を増やして、他社チップを押しのけて自社製での領土を広げてきたわけだ。

 最新モデルではオーディオ用のパワーアンプや超音波を使った指紋認証用のユニットおよび、チップまでQualcommはリリースしている。オーディオ用パワーアンプは、ソニーの2019年モデルスマートフォン「Xperia 1」で採用されており、指紋認証はSamsungのGalaxy S10で使われている。

 Qualcommが手掛けていない領域は、センサー(ただし上記のように指紋認証などは手掛けている)、メモリと通信用パワーアンプだけという状況であった!!

領土はデジタルに限らない

 図3は、今回の本題であるMotorolaの5G moto modに搭載されるQualcomm製チップ(一部省略)を並べたものである。5G通信用のベースバンドプロセッサ「Snapdragon X50」、アプリケーション処理を行う「Snapdragon 855」を取り囲むように電源ICやトランシーバーなどアナログ回路が並ぶ。


図3:「5G moto mod」に搭載されるQualcomm製チップ (クリックで拡大) 出典:テカナリエレポート

 アナログ回路の外側には5Gのみならず、4Gや3Gに対応したパワーアンプチップが各種Qualcomm製のチップセットとして、並んでいるのだ!!

 パワーアンプはモジュール化されており、従来は日本の村田製作所、米国のSkyworks、Qorvo、Broadcom(旧Avago Technologies)などが得意としてきた分野である。この領域にQualcommが自社チップを携えてのチップセット領土の拡大を行っている。5G moto modでは全てのパワーアンプモジュールが、Qualcomm製だけであった。この領域にQualcommが入り込むことは業界再編を促す可能性もあると見るべきだろう。

 5G moto modとほぼ同じチップセットでの5Gの展開は今後中国メーカー(XiaomiやOPPO、VIVOなどのシェア第2グループ製品)のスマートフォンでも、そのまま続々と使われていく可能性は高いからだ。

 またソニーのXperia 1でも同様に多くのパワーアンプモジュールがQualcomm製となっている!! 2018年モデルの「Xperia XZ2」のパワーアンプ群もQualcomm製であった。確実にQualcommはチップセットの領土を広げているのだ。

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