ラズパイの産業利用、知っておきたいメリット/デメリット:メカトラックスに聞く(1/3 ページ)
「Raspberry Pi」(以下、ラズパイ)の産業利用に対する注目度が高まっている。ラズパイを産業利用するのであれば、ぜひ知っておきたいメリットとデメリットを、メカトラックスの代表取締役である永里壮一氏に聞いた。
「Raspberry Pi」(以下、ラズパイ)の産業利用に対する注目度が高まっている。今や教育用途やホビー用途よりも産業用途が上回るラズパイではあるが、開発された段階では産業利用は想定されておらず、Raspberry Pi財団の方針から、今後もラズパイの中核となる用途は教育であることは変わらないと思われる。
つまり、ラズパイを産業利用するのであれば、「本来は教育用途だ」ということをしっかり認識し、産業利用する際の注意点を知っておくことが大切になる。
ラズパイ周辺機器の製造/販売などを手掛けるメカトラックスの代表取締役である永里壮一氏は、そうした“注意点”を最もよく知る人物の一人だ。
永里氏によれば、ラズパイの産業利用に対する関心は、ここ1〜2年で急速に高まり始めたという。メカトラックスが、ラズパイ専用の通信モジュールとして3G対応の「3GPi(スリージーパイ)」をリリースしたのは2014年夏のことである。永里氏は、「当時、3GPiについて問い合わせをしてきた企業は、どちらかというと小規模な企業が多かった。だが、ここ1〜2年は、結構な規模の大手企業からの問い合わせが増えている。(ラズパイの産業利用について)だいぶ風向きが変わってきているのではないか」と述べる。
「企業の中でも、個人で趣味的にラズパイを使うのではなく、組織として予算をつけたPoC(Proof of Concept)などのプロジェクトとして、ラズパイを使うことが増えているのではないか」と永里氏は続ける。「これまでは、例えば、数千万円ほどのコストと1年くらいの時間をかけて特注機器を作っていたが、『ラズパイを使っても同様の装置ができるか、やってみよう』と考える企業が増えてきている。ラズパイに限らず、とにかく既製品を使い、できるだけ低コスト、短期間で特注機器を製作しようとしている。当社にも、ラズパイを使ってできるかどうか、専門性の高い問い合わせがくる」(同氏)
そういったPoCの結果だけでなく、実際に組み込んで使う実稼働品としてもラズパイは利用されるようになっている。数十、数百といった小規模量産の場合は特に、「『ラズパイを使えば新規で基板を起こすよりも安価で済む』という意識が根付き始めていると感じる」(永里氏)
産業利用時のメリット
では、ラズパイを産業利用する場合、どんなメリットがあるのか。
まず挙げられるのは、とにかく安価なことではあるが、それ以上に、周辺機器が多く情報が豊富にあるということが最大のメリットだと永里氏は述べる。
永里氏は、「安価だということは、量産時には効いてくるが、PoCで“1品もの”を作ろうとする場合は、1台4000円だろうが4万円だろうが、全体のコストの中ではそれほど大きな差はない」と続ける。
最もコストが掛かるのは、調べものをしたりソフトウェアを開発したりといった工数(人件費)だからだ。そこで、できるだけ“すぐに触ることができて使い勝手のよいもの”を使うことがコスト削減では重要になる。ラズパイの充実したエコシステムがメリットとなるのは、このためだ。
「あるセンサーを使いたい、といった時に、通常であれば、そのセンサーの型番を調べて仕様やインタフェースを確認するといった作業が発生する。これがラズパイの場合、そのセンサーを使ってみたというブログがあるなど、情報が豊富にある。全て信頼できる情報とは限らないので、精査する必要はあるが、参考にできるものが多数あるというのは大きい」(永里氏)
そして、仮にうまくいかずにPoCが壊れたとしても、わずか数千円のシングルボードコンピュータなので、それほど損失は大きくならずに済む。手軽に始められるというのは、大きなメリットになる。
機能拡張基板などの周辺機器が多数あるというのもメリットだ。「当社もラズパイ専用の通信基板などを手掛けているが、そのような周辺機器を提供しているメーカーがたくさんある。ユーザーは、モノを作ること自体が目的ではないはずなので、そこには時間をかけず、PoCなど本来の目的にフォーカスしてプロジェクトを進めることができる」(永里氏)
さらに、特にIoTなどネットワークにつながる機器を開発するには、LinuxなどのOSを搭載できるラズパイが有利になる。通信やデータ処理を柔軟にできる上に、Linux上での開発に慣れた人であれば特に新しくプログラミング言語を覚えることなく、ラズパイで稼働するソフトウェアを開発できる。
また、メカトラックスが独自に強調しているメリットとしては、「プロトタイプから実稼働にスムーズに持っていけるという点」(永里氏)だという。「今までは、ラズパイを使うのはあくまでPoCやプロトタイプの製作までで、製品化や量産化の段階では新たに基板を起こしたり、産業用PCボードに変えたりするのが一般的だった。今は、『そこもラズパイベースでいけますよ』ということを提案している」(同氏)。プロトタイプを丸ごと製品化することが難しいとしても、プロトタイプの何割かでも流用できれば、開発工数の大幅な低減につながる。
ただ、実稼働までラズパイベースで持っていくのは、「ラズパイが向いている用途で使う場合」という前提条件は当然ながらある。
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