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トヨタのスズキの資本提携は「序章」に過ぎない大山聡の業界スコープ(21)(1/2 ページ)

2019年8月28日、トヨタ自動車とスズキは資本提携を発表した。このような自動車メーカー同士の資本提携は「今後、頻繁に起こる可能性が高い」と予想している。自動車業界も、各社がどうやって生き残るか、必死の戦いが始まろうとしているからだ――。

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 2019年8月28日、トヨタ自動車とスズキは資本提携を発表した。両社のリリースによれば、「トヨタの強みである電動化技術と、スズキの強みである小型車技術を融合させる」ことが目的で、両社の補完関係には確かにシナジーが期待できそうだ。半導体業界出身の筆者は、自動車業界にあまり詳しいわけではないが、このような自動車メーカー同士の資本提携は「今後、頻繁に起こる可能性が高い」と予想している。自動車業界も、各社がどうやって生き残るか、必死の戦いが始まろうとしているからだ。

避けて通ることのできない「CASE」

 以前このコーナーで、「自動車メーカーのビジネスモデルは今後どうなる?」と題して、自動車メーカー自身のビジネスモデルが変曲点を迎えつつあること、その要因がエレクトロニクス業界との融合であること、を述べた。具体的には、自動車メーカー各社が「CASE」*)への対応を避けて通ることができず、今まで経験したことのない事業形態や技術動向に直面することで、さまざまな負担や課題に対処する必要性が急速に高まっているのである。

*)CASE:Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared&Services(カーシェアリングとサービス)、Electric(電気自動車)の略。

 自動車業界ではこれまで、クルマそのものの製品価値が重要視されていた。性能が良い、乗り心地が良い、カッコイイ、といったクルマが求められ、そういう製品を提供することが自動車メーカーのステータスだった。個人がある程度の頻度で買い替える商品としては、住宅を除けばクルマが最も高価なので、「どっちでもいいや」などという買い方はしない。「どんなクルマが自分にとってベストなのか」を追求しながら買い求めるのが通常で、クルマそのものの製品価値が重要視されるのは当然なはずである。

 しかし、「クルマを買う」のではなく、「移動手段を求める」ことを優先的に考えるようになると、我々消費者のスタンスが変わり始める。クルマそのものの製品価値よりも、利便性を重要視するようになるのだ。CASEがもたらす自動車業界へのインパクトは、「実現しやすいところ」から起こり始めている。

 私事で恐縮だが、先日約10年ぶりにシリコンバレーを訪れる機会があった。


画像はイメージです。

 かつては「シリコンバレーはクルマがないと自由に移動ができない」のが常識で、空港に降り立ったら当然のようにレンタカーを借りたものだ。しかし今はUberやLyftといったライドシェアサービスが普及しているので、早速Uberを使ってみた。スマホにダウンロードしておいたアプリに目的地を入力すると、価格が表示されて数分もしないうちに「白タク」が迎えに来る。事前登録済みのクレジットカードでの決済なので現金も要らない。30分くらいの移動距離だと30米ドル前後のチャージで、使い方によっては1日50米ドル前後のレンタカーより割高だが、自分で運転するわけではないので自由に飲酒ができる、というのは個人的に大きな魅力だった。

CASE実現に向けた最初の鬼門「S」

 UberもLyftも業績は芳しくなく、赤字決算に苦しんでいる。だが、いずれも上場したばかりの企業なので、さまざまな課題を乗り越えながら成長すると思われる。ニーズは間違いなくあるのだ。一度この利便性を知ってしまうと、ユーザー側がもう後戻りできるとは思えない。ライドシェアサービスは、CASEの「S」に相当する部分で、実用化にあたっては技術的なハードルが最も低いため、急速に普及したと言えるだろう。

 自動車メーカーも「S」(Shared&Services)の事業化を進めようとしているが、なかなか良い話が聞こえてこない。最も積極的に「S」を進めているのはFord Motorだが、これを推進するモビリティ事業部は2021年まで赤字が続く見込みのようである。トヨタも「MaaS」の事業化を発表しているが、黒字を計上できるようになるまで時間を要する可能性が高い。自動車メーカー各社にとって「S」事業の立上げはCASE実現に向けた最初の鬼門と言えそうである。

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