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トヨタのスズキの資本提携は「序章」に過ぎない大山聡の業界スコープ(21)(2/2 ページ)

2019年8月28日、トヨタ自動車とスズキは資本提携を発表した。このような自動車メーカー同士の資本提携は「今後、頻繁に起こる可能性が高い」と予想している。自動車業界も、各社がどうやって生き残るか、必死の戦いが始まろうとしているからだ――。

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新サービス誕生が期待できる「C」だが……

 「S」に続いて普及が進んでいるのは「C」(Connected)であり、EUのように無線通信機の搭載を義務付けている地域もある。通信機能が備われば、データのやり取りが行われるわけで、クルマの走行データを集めたがるサービス企業もあるだろう。また、クルマに情報を提供したがるサービス企業もあるだろう。クルマをIoT端末の1つを考えれば、さまざまなデータをやり取りが行われるようになり、今まで実現できなかった新しいサービスが多く誕生することが期待できる。しかし、新サービスで得するのはデータを活用するサービス提供者であり、ここでも自動車メーカーに追い風が吹くようには見えない。例えばFordは街全体のV2Xをサポートしようとしたり、駐車場の予約やカーシェアリングなどのサービスを手掛けたりしているが、Ford以外のクルマにもサービスを提供できる企業に対して優位性を保つことは容易ではないだろう。

電動モーターと電池に依存する「E」

 「E」(Electric)の推進はCO2(二酸化炭素)削減のために必要だが、保有者にとって具体的なメリットはなく、高価な大容量電池を搭載する分だけコスト負担が発生する、というデメリットが目立つ。さらにガソリンエンジンを持たない電気自動車(EV)は、外出先でも充電設備がないと、走行距離によっては家に帰り着けるかどうか、不安がつきまとう。最大の問題は、EVの性能が電動モーターと電池に依存することで、これまで自動車メーカー各社が心血を注いで開発してきたエンジンの差別化ができなくなることだろう。トヨタは車載電池を自前で開発しようとする戦略を捨てていないようだが、電池メーカーとのコスト競争に勝算があるとは思えない。世界最大のティア1メーカーであるBoschも、電池メーカーとの合弁事業にこだわっていた時期が2回ほどあるが、やがては電池開発を断念し、合弁を解消している。

「A」は自前主義にこだわるべき?


画像はイメージです。

 CASEのうち、残されたのは「A」(Autonomous)だけだが、完全自動運転の実現に不可欠なAIプロセッサは、半導体メーカーであるNVIDIAやIntelに任せて、彼らの協力を仰ぎながら実証実験を繰り返している自動車メーカーがほとんどである。「自動車メーカーのビジネスモデルは今後どうなる?」の記事でも述べたが、ここを半導体メーカーに任せっぱなしにしていたら、自動車メーカーはいったいどこで自分たちの付加価値を主張できるのだろうか。「S」や「C」で事業化の目処が立たず、「E」では差別化要因だったエンジンを失ってキーデバイスを外部に依存せざるを得ない、となれば、せめて「A」だけは自前主義にこだわる必要があるのではないだろうか。例えばトヨタがデンソーと2020年4月に設立予定の合弁会社は、CASE時代に向けた半導体開発を行うとしているが、これにはAIプロセッサの開発も含まれている、と考えるべきだろう。

 自動車業界に押し寄せた「CASEの波」は100年に一度の大変革を引き起こそうとしており、業界を取り巻く環境自体が大きく変わろうとしている。上述したように、CASEのどれ1つを取っても自動車メーカーのビジネスモデルを変えうるインパクトがあり、これらが4つまとめて押し寄せようとしているのが現状なのである。

 冒頭に「トヨタのスズキの資本提携は「序章」に過ぎない」と述べたが、すべての自動車メーカーが直面している共通の問題に立ち向かうためには、お互いの経営資源の効率化、新たな(未知の)領域に踏み込む際の共同戦線、といった戦略を立てる必要がある。だから、今回のような提携話は今後、続出する可能性が高い、と思わざると得ないのである。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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