Appleの5Gモデム事業成功に立ちはだかる壁:新型iPhoneは5G未対応……(2/2 ページ)
Appleは、Intelのモデム事業部門を買収した後、高性能5G(第5世代移動通信)モデムの構築を実現するという、急坂を登らなければならない課題に直面している。RFチップメーカーの買収が必要になる可能性さえありそうだ。
統合/スタンドアロンモデム
自社開発モデムを保有することの最大のメリットは、SoCへの統合が可能になるという点だ。さらにそこから、消費電力量や性能、寸法などに関してもメリットが得られる。また、サードパーティ製のモデム(例:Qualcomm製品)を使用しても、何ら変わりはない。Appleは遅かれ早かれ、間違いなくIntelの4Gモデムを、Armアーキテクチャをベースとした自社の「Aシリーズ」アプリケーションプロセッサに搭載するだろう。
しかし、5Gモデムの統合は、非常に複雑だ。AppleはQualcommとの間で、モデムに関して複数年間の契約を締結している。もしAppleが、自社の4G LTEモデムを早い段階で統合したい場合は、Qualcommが、同社の第1世代の5Gモデム「X50」と類似した、5Gのみ対応のモデムを提供してくれるのを頼りにしなればならない。Qualcommが最近、マルチモード(4G+5G)モデムを手掛けていることから、Appleが独自の5Gモデムを開発できるようになるまで、統合計画は複雑化することになるだろう。AppleがQualcommとの間で締結した契約によって、5Gのみ対応のモデムの供給が保証されるかどうかは、今のところ不明だ。またAppleは、市場や設定が異なる場合に向けて、複数のSKU(4Gのみ+5G)を用いる必要がある。
モデム、アプリケーションプロセッサのロードマップの調整
Appleのアプリケーションプロセッサ、モデム技術の進化の度合いは、それぞれ異なる。このため、もし統合すると決断した場合は、さらにアプリケーションプロセッサとセルラー技術のロードマップを調整する必要があることから、さらに複雑さが増していく。
Appleは3GPPの開発をコントロールすることは不可能で、その決定を順守するしかないため、ロードマップの計画プロセスに多大な変更が必要になる。例えば、2016年に5Gの開発スケジュールが加速されたことは、全くの驚きだった。このような突然の変更は、Appleの製品計画全体に大きな混乱をもたらすことになる。
もう1つの選択肢は、AppleがQualcommのモデルに追従してスタンドアロンモデムとして5Gモデムを製造し、次のバージョンでSoCに統合するという方法だ。
5Gにはモデムからアンテナまでを備えたシステムが必要
5Gの誕生によって、特にミリ波帯では、モデムとRFは切り離せなくなった。Massive MIMO(大規模MIMO)、ビームフォーミング、ステアリング、RF送信電力管理やその他の多くの機能が非常に重要になるため、モデムからアンテナまでを備えた包括的なシステムを設計しなければ、市場シェアを勝ち取ることはほぼ不可能である。
Apple によるIntelモデム事業買収契約では、Appleが獲得するのはモデムのベースバンド技術/製品やデジタル部品だけだ。Appleは元来、QorvoやBroadcom、SkyworksなどのサードパーティのRFソリューションプロバイダーに依存してきたが、サードパーティのミリ波RFをモデムと統合することは大きな課題である。Appleが近いうちにRF企業を買収しようと検討しているとしても、筆者は驚かない。
投資の償却
モデムは、スマートフォンのBOM(Bills of Materials)コストの大きな部分を占める。Appleがスマートフォンに搭載するモデムの数を考えると、モデムを自社開発すればかなりのコストを削減できる。ただし、Samsung やHuawei、Qualcommなどのモデムの競合他社と比べると、Appleのモデム生産量ははるかに少ない。つまり、モデムに対する膨大な投資を少ない数のデバイスで償却しなければならない。それを考えると、Appleがモデム事業でどれだけのコストを削減し、どのようなROI(投資収益率)を達成できるかには興味をひかれる。
これは、Appleが直面する課題のほんの一部に過ぎない。モデムへの投資の償還の道には、Broadcomやルネサス エレクトロニクス、NVIDIA(Icera)、ST Ericsson、Motorola、そしてIntel(Infineon Technologies)など、挑戦の末に敗北した企業の屍(しかばね)が横たわっている。Appleは不利な条件を克服して成功できるのだろうか。この取り組みには、Appleの持つ市場力や財務力、ブランドエクイティが役立つのだろうか。その答えは、時がたてば分かるだろう。
【翻訳:田中留美、滝本麻貴、編集: EE Times Japan】
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