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誰がために「介護IT」はある?江端さんのDIY奮闘記 介護地獄に安らぎを与える“自力救済的IT”の作り方(1)(3/7 ページ)

今回から、「介護のIT化(介護IT)」をテーマにした新しい連載を始めます。人材不足が最も深刻な分野の一つでありながら、効率化に役立つ(はずの)IT化が最も進まない介護の世界。私の実体験をベースに、介護ITの“闇”に迫ってみたいと思います。

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浮かび上がってきた、父の恐怖

 今回の事件の関係者の一覧をまとめました。

 今回の事件の大きな特徴は、ココセコムという位置情報提供システムを、『追跡システム』として使用したことと、警察や道路公団などの組織を巻き込んだ、という点にあります。

 そして、この時「ココセコム」がなく「姉弟チームの結成」がなかったら ―― 私たち姉弟は、父が思わぬ場所で発見(もしかしたら死体で)されていたか、父が警察に拘束されていたか、あるいは、誰かを車で殺してしまったか、を、突然知らされただけだっただろう、ということです。

 今回の事件の発生から、父の身柄確保までの机上シミュレーションの結果を、タイムテーブルでまとめてみました。

 ここまでは「私たち姉弟の恐怖」だけを書いてきましたが、こうしてシミュレーションをしてみた結果、私は「父の恐怖」を理解できていなかったことが、よく分かってきました。

 私は、今回の事件を3つのフェーズ「小規模迷走」「大規模迷走」「最終迷走」に分けて、それぞれの、父が感じたであろう恐怖を推測してみました(上記の表の赤字)。

 「小規模迷走」においては、普段なら10分で到着するはずの自宅にたどりつけない恐怖が見てとれます。これは、私たち姉弟が気付かなかっただけで、今回の事件になる以前から頻発していた可能性があります。

 「大規模迷走」に関しては、もはや、自分が何処にいて、何処に向っているのか分からないまま、何時間もさまよっている恐怖が分かります。

 父は電話を所持しておらず、車にはカーナビも搭載されておらず、恐らく案内標識だけを頼りに動いていたのでしょうが、もはや、その標識の表記の場所さえも分からなくなってきたのだろうと思います。加えて、水も食事も取らず、トイレ休憩すらない運転だったと思います(車内にゴミが発見できなかった)。

 「最終迷走」のフェーズでは、ガードレールもろくに整備もされていない、(多分積雪もあっただろう)狭い暗闇の山道の走行は、相当に恐しかっただろうと思います。恐らく行き止まりで停止している時間は、暗闇に押しつぶされるような恐怖があったと思います。

 必死の思いで、山道を脱出し、少しでも明りのある道を目指して、結果として、高速道路に進入してしまった心理は、痛いほど理解できます。そして、ゲートから脱出することもできず、見も知らぬ人間(職員)に拘束されたことも、とても怖かったと思います。

 今回、私は、地図だけでなく、Googleストリートマップを用いて、現場写真を見ながら、父の運転ルートを再現したのですが、Googleストリートマップには、昼間の画像しか表示されません。

 その事件の最中、父の目に映っていた車外の風景は ―― 漆黒の闇と、わずかな光の粒だけだった

 そう思うと、胸が締め付けられる思いがします。

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