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誰がために「介護IT」はある?江端さんのDIY奮闘記 介護地獄に安らぎを与える“自力救済的IT”の作り方(1)(6/7 ページ)

今回から、「介護のIT化(介護IT)」をテーマにした新しい連載を始めます。人材不足が最も深刻な分野の一つでありながら、効率化に役立つ(はずの)IT化が最も進まない介護の世界。私の実体験をベースに、介護ITの“闇”に迫ってみたいと思います。

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そもそも「介護IT」「介護」とは何なのか

 そもそも、「介護IT」とは、「介護」なのでしょうか。

 つまるところ、介護ITとは、介護サービスではなく、その一部ですらない、という事実です。なぜなら、ITは情報技術であって、情報技術はどんなにがんばっても、介護に変換することができないからです。

 では、一体、「介護IT」とは、"誰のため"に、"何のため"にあるのか?

 私がココセコムを使って父の居場所を追跡しようとも、ラズベリーパイを使って遠隔地からの見守りをしようとも(次回掲載予定)、実家内の至るところに緊急呼出しボタンを設置しようとも(次々回掲載予定) ―― 1mm足りとも、「身体や精神が健全でない状態にある父や母の行為を助ける世話」などできないのです。

 これについて、考えて、考え抜いて、私の導き出した結論は、以下の通りです。

―― 私たちは、老親を「助ける」為にITを使うのではない
―― 私たちが、「安らぎを得る」為にITを使うのである

 本連載では、「介護IT」の目的を、自己満足で自己完結した自己救済と位置付けます。

 私たちが「介護IT」でできることは、せいぜい自分自身の安らぎを得ることくらいです ―― そして、それで良いのです。

 なぜなら、

――「介護」に幸せな道はない*)

*)関連記事:「介護サービス市場を正しく理解するための“悪魔の計算”

からです。

 それならば、私たちだけでも安らぎを得ることは、「介護」という人類史上、最大級の困難に対抗する最初の反撃になるはずです ―― たとえ、それがどんなにささいなものであったとしても、です。

 それでは、新シリーズ「介護IT」第1回の内容をまとめます。


【1】今回は、新シリーズ「介護IT」の例として、車に乗って行方不明になった父を「ココセコム」と「姉弟チーム」で追跡した事件を公開しました。そして、追跡をする私たち姉弟と、追跡される父の恐怖と苦痛を、机上シミュレーションで再現してみました。

【2】高齢者運転による殺傷事件を止めることができない理由は、立法も行政も、ましてや家族にも、高齢者の運転を止める手段がないからであることを明確に示し、この問題を本質的に解決するためには、(1)高齢者の権利と自由を著しく制限する社会か、(2)高齢者による運転による損害を前提とする社会の、どちらかを選択するしかない、という悲観的な結論を導きました。

【3】世間一般で言われている「介護IT」なるものが、被介護者に対する要求をするものである限り、介護になり得ないことを明かにしました。そして、介護サービスのフロントのITリテラシーの絶望的な不足のため、介護サービスの効率化や品質の改善は見込めないことと、そして、これを変えたければ、サービス利用者である私たちが「外圧」を使うしかないことを説明しました。

【4】介護ITとは、"誰のため"に"何のため"にあるのか? ―― という問いに対して、『私たちが、安らぎを得るためにある』と結論づけました。


 以上です。

「苦痛の共有化」が必要だ

 私は、ITというものが、Information Technology:情報技術であるというなら、取り扱うのは「情報」であるべきだと考えます。

 では、介護における最も重要で貴重な情報とは何か ―― をとことん突き詰めて考えて、私は一つの答に到達しました。

 それは、―― 「苦痛」の共有化です。

 現時点における科学技術において、第三者の苦痛を知覚することはできませんし、ましてや同じ苦痛を、他人と共有することもできません

 しかし、苦痛を定量化する、苦痛を見える化するというところであれば、脳の可視化(例えば、近赤外分光分析法(fNIRS : functional near―infrared spectroscopy))などの技術の応用の可能性があります。

 上記の表の中で赤字で記載している、「人間に許されうる限界を超える、耐えがたい苦痛に対する、最終的な意志決定支援」とは、一言で言えば、「安楽死の判断」のことです。

 我が国には「安楽死」を認める法律がありません。これは、現在の技術で、「苦痛の定量化」ができていないからだと思います。このことからも「苦痛を測定する装置」の開発が急がれると考えます。

 併せて、「苦痛を共有する装置」を開発できれば、私たちは、「安楽死」という難しい問題の障壁を、かなり下げることができるようになると思うのです。

 例えば、裁判官に、その苦痛共有装置で、苦痛を体感してもらって、「安楽死許可書」を発行してもらえるようになる、とか ―― 最近の私は、そんなことばかり考えています。

 それでは、新連載「介護IT」にお付き合い頂けますよう、よろしくお願い致します。

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