SiCの競争が激化、ウエハー供給不足は解消に向かう?:堅調な成長が予測される(1/2 ページ)
SiCパワー半導体には、引き続き高い関心が寄せられている。SiCウエハーの供給不足を懸念する声がある一方で、解消に向かっているとの見方もある。
SiC(シリコンカーバイド)は、半導体材料として、特に効率の面で非常に優れた性質を備えているが、自然環境の中では極めて希少な存在だ。SiCは、材料として最初に発見された時、隕石の中にごく微量のみ含まれているという状態だったことから、「46億年にわたる長旅を経てきた半導体材料」と呼ばれることもある。
フランスの市場調査会社Yole Développement(以下、Yole)は、最近発表したレポート「Power Silicon Carbide (SiC): Materials, Devices and Applications - 2019 Edition(パワーSiC:材料/デバイス/アプリケーション:2019年版)」の中で、「SiCパワー半導体向け市場は2024年までに、年平均成長率29%で伸びて20億米ドル規模に成長する見込みだ」と予測している。
ウエハー供給不足は今後も続くのか?
ここ数年の間、SiC業界の成長を妨げる主要な障壁となっているのが、SiCウエハーの供給不足だ。プレイヤー企業の多くは、市場需要が増大していることもあり、サプライチェーンの需要を満たすために投資を拡大する必要があるということを認識している。
Creeは2019年5月に、オートメーション化された200mm SiCウエハー工場施設を拡張/開発すべく、10億米ドルの資金を投入すると発表した。2024年の完了を目指し、WolfspeedのSiCおよびGaN(窒化ガリウム)事業部門をサポートする予定だ。これにより、SiCウエハーの製造能力を最大で30倍に高め、SiC材料の生産量も30倍に拡大することが可能になり、電気自動車市場や5G(第5世代移動通信)市場の需要に対応できるようになる見込みだという。
STMicroelectronicsは、SiC市場をかなり重要視しており、2018年の売上高は1億米ドルだったが、2019年には2億米ドルの達成を目指しているという。2025年の売上高目標は10億米ドルで、SiC市場全体の30%のシェアを獲得したい考えだ。
同社はこうした目的を達成すべく、2019年1月にCreeとの間で、複数年にわたるSiCウエハー供給契約を締結している。Creeは、この契約の一環として、STMicroelectronics向けに2億5000万米ドル規模の150mm SiCベアウエハー/エピタキシャルウエハーを供給する予定だという。また、STMicroelectronicsは2019年2月に、スウェーデンのSiCウエハーメーカーであるNorstelの55%の株式を取得している。残りの45%の株式獲得についても、検討している。
Infineon Technologiesも、後れを取るつもりはない。同社は2018年2月の早い段階で、Creeとの間でSiCウエハーの長期的な供給戦略契約を締結したと発表した他、同年11月には、ドイツの新興企業Siltectraを買収したことにより、SiCウエハーを2枚に分割する技術「Cold Split」を獲得している。
ロームは2000年から、SiC-MOSFETの基礎研究に取り組んできた。2009年には、ドイツのSiCウエハー材料メーカーであるSiCrystalを買収している。SiCrystalは、インゴット製造から、ウエハー処理、パッケージアセンブリに至るまで、完全な垂直統合型製造プロセスを採用している。これまでのマイルストーンとしては、2010年には世界初となるSiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)およびSiC-MOSFETの量産、2012年には完全なSiCモジュールの量産、2015年にはトレンチ構造を採用したSiC-MOSFETの量産、2017年には150mmウエハーによるSiC-SBDの量産、などが挙げられる。
Yoleのレポートによると、ロームの世界SiC市場全体におけるシェアは、2013年には12%だったが、2018年には23%まで拡大したという。中国 北京に拠点を置くRohm Semiconductorの技術センターでディレクターを務めるSuwon Dejian氏は、「ロームのSiC製造分野における投資額は、2025年までに850億円に達する見込みだ」と述べている。
ON Semiconductorのシニアディレクターであり、低電圧/電池保護用MOSFETおよびワイドバンドギャップMOSFET部門担当ゼネラルマネジャーを務めるBret Zahn氏は、「ウエハーの供給不足によって、SiC市場の開発が抑制されている」という見解が広まっていることについて、疑問視しているようだ。同氏は、「プラットフォームのインポート設計に関する厳格なプロセス認証や、その後に続く認証などが出発点になっているが、市場導入は継続的に増加している」と述べている。
同氏によれば、SiC市場では、以前は100mmウエハーが使用されていたが、より多くのSiCサプライヤーが市場に参入するようになると、市場競争が激しくなり、コスト優位性の面から150mmウエハーが好まれるようになった。現在は、100mmウエハーのサプライヤーも、高品質の150mmウエハーを供給している他、新たなSiCウエハーサプライヤーも市場に参入していることから、SiCウエハーの供給不足は緩和されつつあるという。
ON Semiconductorは、同社が2016年末に買収したFairchild Semiconductorから取得した技術を利用し、2017年にSiCデバイス供給市場に参入した。ON Semiconductorは、比較的新しいSiCデバイスサプライヤーとして、参入当時から150mmウエハーを使用してきた。ON Semiconductorは、SiCウエハーの結晶成長から自社で行う計画を立てており、2022年末までに自社開発SiCウエハーの少なくとも50%を提供するという目標を掲げている。
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