SiCの競争が激化、ウエハー供給不足は解消に向かう?:堅調な成長が予測される(2/2 ページ)
SiCパワー半導体には、引き続き高い関心が寄せられている。SiCウエハーの供給不足を懸念する声がある一方で、解消に向かっているとの見方もある。
電気自動車で高い注目度
初期のSiCの用途は、主に太陽光発電の貯蔵用インバーター、データセンターサーバ向けUPS(無停電電源装置)への電力供給、スマートグリッドの充電ステーションといった、高い変換効率が求められる領域に集中していた。5kWのDC-DCコンバーターを例に取ると、その電力制御ボードは、Si-IGBTを用いた場合、重量は7kg、容積は8755ccになる。一方で、SiC-MOSFETを用いた場合、重量は0.9kg、容積は1350ccにまで削減できる。これは、SiC-MOSFETのチップ実装領域が、Si-IGBTのわずか4分の1であり、その高周波特性によってSi-IGBTに比べて損失を63%低減できるという特長によるものだ。
“電気自動車のF1”である「Formula-E」でも、SiC技術への注目度は高い。2016年の第3シーズン以降、ロームはVenturiのスポンサーとなり、200kWのインバーターに搭載されていたSi-IGBT+Si-FRD(Fast Recovery Diode)のモジュールを、Si-IGBT+SiC-SBDに置き換えた。この結果、インバーターの重量を2kg削減し、サイズを19%低減することに成功した。さらに、2017年のシーズンではSiC-MOSFET+SiC-SBDというフルSiCモジュールに置き換えることで、重量を6kg削減し、サイズを43%低減した。加えて、インバーターの出力は200kWから220kWに高まった。
現在、電気自動車(xEV)のメインドライブインバーターでは、Si-IGBT+Si-FRDが主流だが、将来の電気自動車に、より長い走行可能距離が求められていることに加え、充電時間の短縮やバッテリー容量の増加に対するニーズを踏まえて、SiC-MOSFETが用いられるケースもある。
Rohm SemiconductorのSuwon氏は「電気自動車にSiCインバーターを用いることにより、経済的な利益を得られるのは明らかだ」と述べた。さらに同氏は、SiCはインバーターの効率を3〜5%高めることができる上に、バッテリーのコストと容量を減らすことができることにも言及した。バッテリー容量が増加することから、ハイエンドの自動車にとって大きなチャンスになるとSuwon氏は強く主張している。
ON SemiconductorのZahn氏は、SiCを開発する際は、ウエハー製造、パッケージング、テスト、アプリケーションテスト、最終的な認定テストなど、開発チェーンのあらゆる工程を再考しなければならないと強調した。
【翻訳:青山麻由子、田中留美、編集:EE Times Japan】
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