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ベンチャーエコシステムの活性化、大企業・政府・大学の役割とはイノベーションは日本を救うのか(35)(1/4 ページ)

今回は、ベンチャー企業とベンチャーキャピタル以外のところを取り上げたい。具体的には、ベンチャー企業のエグジット、日本政府が果たせる役割、そして大学の役割だ。

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 これまで、3回にわたり、ベンチャー企業、ベンチャーキャピタル、新興資本市場といったベンチャーエコシステムの重要な要素の課題について議論してきたが、日本のベンチャーエコシステム全体を見渡すと、さらにいくつかの心しておくべき点がある。今回は、これまでの3回では扱わなかった、これらさまざまな留意点(必ずしも問題点ではないものも含め)について整理していきたい。

 今回トピックとして取り上げたいことは3つある。

  1. 大企業の役割:ベンチャー企業のエグジット(投資資金の回収)では積極的な買収を
  2. 政府の役割:起業しやすい環境を整える
  3. 大学の役割:大学発ベンチャーの促進と産学連携の推進

 それでは、一つずつ見ていこう。

大企業の役割:ベンチャー企業のエグジットでは積極的な買収を

米国では、ベンチャー企業のエグジットは、大企業による買収が圧倒的多数に

 前回の記事「ハイテク系ベンチャーを正当に評価できない? 非効率な日本の新興市場」では、ベンチャー企業の株式初公開(IPO)と日本の資本市場(新興市場)の課題について議論した。

 ベンチャー企業のエグジットの状況について、いったん米国に目を移してみよう。皆さんご存じのように、米国では1990年代半ばにインターネットが商業化され、米国ハイテク業界は一気にネットバブルに向かって突き進んだ。だが、2001年にネットバブルが崩壊する。以降、ベンチャーキャピタルの投資も一気に冷え込み、ベンチャー企業への投資は、ネットバブル期のピークだった2000年の1203億米ドルから2003年は155億米ドルにまで落ち込んだ。

 では、ベンチャー企業のエグジットはどうなったのか。2000年より前は、米国でもIPOは“成功の代名詞”であった。故にベンチャー企業がIPOを目指すのは一般的で、IPOの数もネットバブルの膨張とともに大きく増加した。ネットバブルは「ドットコム・バブル(.com bubble)」と呼ばれるほどで、社名に”.com”を付けるだけで、起業から1年もたたずにIPOできてしまうといった状況が続いた。

 ところが、ネットバブル崩壊後のベンチャー企業のエグジットは、大企業による買収が圧倒的に多くなり、IPOは少数になっている(図1)。これには大きく2つの理由が挙げられる。一つは、ネットバブルが崩壊して、さすがにベンチャー企業も上場しにくくなった(market creationができにくくなった)ということ。そしてもう一つは、2002年に施行されたSarbanes-Oxley Actである。


図1:米国におけるベンチャー企業のエグジット(クリックで拡大)

 この法律は上場企業のガバナンスとコンプライアンスを強化するためのもので、株主や会社の従業員を企業の財務・会計の誤りや不正から守るために作られた。ベンチャー企業にとっては、この法律は上場をためらう大きな要因になる。つまり、上場した場合、ガバナンスやコンプライアンスを守ることは当然としても、そのために結構な費用がかかることになるのだ。

 また、経営側も株主や従業員から訴訟された場合のために、「D&O Insurance(Directors &Officers Insurance:取締役および執行役の保険)」を掛けることになる。さらに、詳しい財務情報を公けするだけではなく、場合によっては競合に開示したくない戦略的な情報の公開をも余儀なくされる可能性があるのだ。こうなると、「株式公開しにくくなった」というばかりでなく、「株式公開したくない」という気持ちに傾くのは当然だろう。

 昔は、他の企業による買収は、何年たってもうだつの上がらないベンチャー企業、がベンチャーキャピタル(VC)からの圧力などで、低い評価額でも売却するというケースが多かった。ただ、IPOを視野に入れられる程度まで育ってきたベンチャー企業は、他企業への売却とIPOとを比較し、もし売却の方が高いバリュエーション(企業価値の査定)がなされるのであれば、売却を積極的に選ぶというケースもあった。実際、そのようなオファーが他企業からあった場合、役員会は、そのオファーを株主に知らせ、その是非を真剣に検討するという責任が課されている。

 いずれにしても、ネットバブル崩壊以降は、ベンチャー企業も自分の会社を買ってくれる大企業が現れたら、そちらを選択するのが当たり前になってきている。

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