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半導体メーカーの働き方改革 〜半導体技術者の在宅勤務は可能か?湯之上隆のナノフォーカス(18)(2/3 ページ)

今回は、いつもとは毛色を変えて、“半導体メーカーの働き方改革”に目を向けてみたい。筆者がメーカー勤務だった時代と現在とでは、働き方にどのような違いがあるのだろうか。

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時々やってくる超特急ロットに振り回される

 “スタンプラリー”さえ終わってしまえば、後は、目的のドライエッチング装置に25枚1セットのロットを仕掛けて、1枚ずつパラメータを設定し、加工実験を遂行すればいい。“スタンプラリー”に比べれば、加工実験は1人でできるし、時間もさほどかからないため、最も楽な仕事と言える(最も重要な実験が最も楽な仕事とは変な話ではあるが)。

 ただし、開発ラインや量産工場では、時々、超特急ロットを流す場合がある。新製品の出来を至急確認する場合や、大至急サンプル出荷品を作る場合などに、超特急ロットを流す。その際は、関係する半導体プロセス技術者は、深夜早朝関係なく、超特急ロットに対応しなければならない。

 超特急ロットでは、加工検討用に1ロット、製品試作用に1ロット、合計2ロットをまとめて流す。担当者は、自分が責任を持つ工程にロットが差し掛かったら、まず加工検討用ロットを用いて条件出しを行い、その条件で製品ロットを処理して次の工程に渡す。

 この超特急ロットは、関係するプロセス技術者たちが24時間フル対応を行って、通常2〜3カ月かかるところを10日間ほどでウエハープロセスを完了させる。従って、超特急ロットが頻繁に流れてくると、1カ月最大60時間の残業時間などは守りようがないことになる(といっても残業時間の多くが超特急ロットの待ち時間だったりするが)。

断面SEM観察

 そして、ドライエッチング技術者として、最も多くの時間を割いていたのが、断面SEM観察である。パラメーターを振って加工したシリコンウエハーについては、1枚につき最低でもセンター、エッジ、その中間(ミドル)の3カ所、多ければ10カ所以上の断面をSEM観察する。

 そのためには、ウエハーを割って数ミリ角のSEM観察用チップをつくり(チッピングという)、そのチップにチャージアップ防止用の金(Au)をスパッタでコーティングし、SEMのマシンタイムを予約して(大体2時間単位)、断面SEM写真を撮りまくることになる。

 しかし、半導体プロセス技術者の人数に対して十分な台数のSEMはない。従って、常にSEMの予約は取り合いになる。筆者は、途中で邪魔が入らず、じっくりSEM観察をするために、人気(ひとけ)が無くなる深夜0時〜明け方6時頃にSEM観察を行うことが多々あった。しかし、現在こんなことをしていたら、残業時間を1カ月60時間以内にすることはできないばかりか、深夜残業と見なされ、管理者が大目玉をくらうことになるだろう。

最近の半導体プロセス技術者の仕事の方法

 もし、20〜30年前に働き方改革関連法案が施行されたら、半導体プロセス技術者は、とてもじゃないがそれを順守することはできなかったと思う。それでは、最近のプロセス技術者はどのように仕事をしているのだろうか?

 やはり、試作用のロットを仕込んだり、量産ラインの最新装置を借りたりする場合は、相変わらず“スタンプラリー”が必要であるという(いまだに”スタンプラリー“が存在しているとは驚きだった)。ただし、紙を持って回っているのではなく、電子媒体で処理を行っている模様だ。だとすれば、筆者の時代より幾分かは効率化されていると言えよう。

 次に、加工用のロットを装置に仕掛けて、1枚1枚パラメータを振ってドライエッチングすることについては、一切クリーンルームに入る必要がなく、オフィスにある自分のPCから“全てをリモート”で行うことができるという。

 これを聞いたときは、相当驚いた。

 じゃあ、ドライエッチング技術者の仕事は、PC上で“スタンプラリー”を行った後、リモートで実験を行って、断面SEM観察をするだけかと聞くと、「断面SEMも、その専門の人たちがいるので、PCで指示を出せばいい」という。

 えー!?

 これには開いた口がふさがらなかった。

 すると、半導体プロセス技術者の仕事とは、実験を企画し、PC上で“スタンプラリー”を行い、PCからリモートで実験して、PCで断面SEM観察の指示を出す、ということになるのだろうか。それで、どうして1カ月の残業時間が60時間を超えるのだろうか? もしかしたら、無駄な会議がやたらたくさんあるとか、PCで各指示を出した後の待ち時間が長いということなのかもしれない。

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