脳に埋め込んだチップで、まひした手足を動かす:仏の研究機関が開発
まるでサイエンスフィクションのような話だが、フランス・グルノーブルにあるフランス原子力庁(CEA)の研究機関で、グルノーブル大学病院内で活動する「Clinatec」が、体内に移植できるワイヤレスの脳インプラントデバイス「WIMAGINE」を開発した。
まるでサイエンスフィクションのような話だが、フランス・グルノーブルにあるフランス原子力庁(CEA)の研究機関で、グルノーブル大学病院内で活動する「Clinatec」が、体内に移植できるワイヤレスの脳インプラントデバイス「WIMAGINE」を開発した。28歳の四肢麻痺(まひ)患者が、このデバイスと外骨格(exoskeleton)を使って、歩いたり両腕を動かしたりできたという。長期的には、同技術によって深刻な運動障害のある人たちが、自由に動けるようになると期待されている。
Clinatecが開発したWIMAGINEは、感覚運動皮質にある電気的活動を記録するデバイスだ。同デバイスは脳の電気的活動を高解像度で継続的に記録できるという。手足を動かそうとすると、その“意思”に関連した脳活動がリアルタイムにワイヤレスで解析用PCに伝送され、外骨格の動きを制御する。
WIMAGINEは、頭蓋に半侵襲的に移植するように作られている。それにより、硬膜(脳の周りにある皮膜のこと。脊髄の一部)に接触させた64層の電極を用いて、硬膜下皮質表面電位(ECoG)を記録することができる。WIMAGINEのパッケージは、生体適合性や安全性を長期間確保するように開発されているという。「EU Directives for Active Implantable Medical Devices」が求める基準に準拠すべく、厳密なテストを実施したとClinatecは述べている。
四肢麻痺患者がこのようなデバイスによって、歩いたり両腕を動かしたりできたのは、これが初めてだという。Clinatecの「Brain Computer Interface (BCI)Project」での臨床研究の成果は2019年10月、医療雑誌「The Lancet Neurology」に発表された。
Clinatecのプロジェクトの長期的な目標は、WIMAGINEによって、重度の麻痺や運動機能障害がある人たちが、車椅子やロボットアームを自分で操作できるようになることだという。
今回、WIMAGINEの実験的治療に協力した28歳の患者は、外骨格を制御するため27カ月にわたりさまざまな訓練を行ったという。同患者はWIMAGINEと外骨格によって、腕を曲げたり広げたり、手首を回したりといった動作ができた。
今回の発表によって、麻痺のある人たちが、より自由に日常生活を送れるようになるための可能性が大きく広がったのではないか。CEAのプレスリリースによれば、今後あと3人の被験者がWIMAGINEを使用する予定だという。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- “人の目を超える”、UWBを使った3Dセンサー
イスラエルのVayyar Imagingが開発した「3Dセンサー技術」は、超広帯域(UWB:Ultra Wide Band)無線周波数を利用して、対象物を画像化するものだ。乳がんの検査用に開発されたこの技術は、ガス管の検査からセキュリティチェック、高齢者の見守り、食品の組成検査まで幅広い分野に応用できる可能性がある。 - 電子産業が「医療・生命科学」に期待するもの
今回は、「メディカル・ライフサイエンス(医療・生命科学)」から前半部分の概要を報告する。同分野でのエレクトロニクス技術に対するニーズや、エレクトロニクス技術が貢献できそうな事柄には、どんなものがあるのだろうか。 - 医療、ライフサイエンスで発揮するソニーの技術力
ソニーは「CEATEC 2019」(2019年10月15〜18日、幕張メッセ)で、メディカルイメージング領域とライフサイエンス領域に関する技術や製品を初めて展示した。同社がCEATECに出展するのは2013年以来6年ぶりだ。 - 細胞の“ゆらぎ”を利用すれば超省エネマシンができる!? ――CiNetの研究開発
生体が超省エネで活動できる理由は、細胞の“ゆらぎ”にあるという。ゆらぎを応用すれば、非常に低い消費電力で稼働するシステムを実現できるかもしれない。脳情報通信融合研究センター(CiNet)の柳田敏雄氏が、「NICTオープンハウス2014」の特別講演で語った。 - アルツハイマーの解明目指す、脳組織チップの開発へ
ベルギーの研究者らは、FacebookのMark Zuckerberg氏ならびに同士のパートナーであるPriscilla Chan氏が主導する慈善団体「Chan Zuckerberg Initiative(CZI)」から、パーキンソン病のメカニズムを研究するための新たなチップの開発に投じる105万米ドルの資金を調達した。