半導体業界はぜひ信頼性を高める努力を ―― 5Gオペレーターからの提言:ソフトバンク CNO 佃英幸氏インタビュー(2/3 ページ)
2019年12月11日に開幕する展示会「SEMICON Japan 2019」で、ソフトバンクで最高ネットワーク責任者(以下、CNO)を務める佃英幸氏が講演を行う。半導体業界関係者らが多く来場する展示会で佃氏は何を語るのか――。佃氏にインタビューした。
CPUやメモリといったデバイスも高速化が必要
EETJ 5Gでは、高速、大容量という点も注目され、期待を集めています。
佃氏 容量が大きくなることで、多くの通信需要があってもスループットが落ちにくくなります。オペレーターにとっても、ユーザーにとっても、(5Gになれば)回線が混み合ったという感覚をあまり感じずに済むようになります。理論上、5Gは、1Gビット/秒(以下、bps)、2Gbpsという高速通信が行えますが、それはあくまで環境が整った実験室レベルの話です。実際には、1人当たりの通信キャパシティーが増え、通信速度のピークダウンが減るという面で、5Gの“高速”を実感するのではないでしょうか。
5Gのリンク速度がとても注目されていますが、5Gだけでシステムが高速化できるわけではありません。システム全体の遅延要素のうち、無線区間が占める割合は10〜20%ぐらいにしかありません。その多くは、端末と通信バックボーンやサーバといった両エッジの要素が決めます。そのため、CPUやメモリといったデバイスも高速化する必要があります。
今後4〜5年ほどで5Gが当たり前になる時代に
EETJ ソフトバンクでは2020年に5Gの商用化されますが、5Gネットワークはどのようなスケジュールで進む見込みですか。
佃氏 4Gのような全国で使用できるエリアカバー率は、皆さんが思っているよりも早い段階で実現されるでしょう。イメージとしては、4Gのようなスピードでカバーされると思っています。
4Gの商用化時も、3Gがあるから補えると考えられていましたが、4G端末が多く出回るとすぐに「ここは4G圏外で3Gかあ……」と不満に思われる声をたくさんいただきました。
今後4〜5年ほどで、5Gでも同じように「ここは4Gかあ……」と不満に思われる声が多くなり思うほど、5Gが当たり前になる時代になるでしょう。
EETJ 5Gサービスの普及は、やはりスマートフォン、コンシューマー領域からになりますか。
佃氏 コンシューマー領域の普及速度は、5G対応端末の普及率次第になると思います。ただ、一般消費者が「5Gでなければ我慢できない」というようなケースは、4G本来の通信速度を提供できていれば、ほとんどないでしょう。コンシューマーの多くが求めているのは「5G対応」という“印”“シール”だと思っています。
コンシューマー領域で、5Gだからこそのサービスをしいて挙げるとすると、AR/VRです。5Gの低遅延という特長が生き、違和感の少ない仮想現実、拡張現実を体感できるからです。ただ、AR/VRでも、デバイスやセンサーの処理速度、応答速度の高速化も不可欠なので、ぜひ、半導体業界に頑張ってもらいたいと思っています。
5Gの最大の特長である低遅延を必要としているのは、コンシューマーよりも産業界だと考えています。建機や農機といった自動車以外の“自動運転○○”や、環境センサーの情報で自律的に動くロボットアームなど、5Gのネットワークを使って、低遅延でモノを動かしたいという声が多くあります。
5Gの最大の特長である低遅延を必要する産業界に向けて
EETJ 産業領域での想定5Gユースケースをもう少し具体的に紹介いただけますか。
佃氏 例えば、山間部の造成地。ドローンが上空から撮影、計測し、トラックやショベルカーが無人で動くというような場面で、5Gが活用されるというような活用方法が考えられます。農場や建設現場などでも同様です。
そのため、5Gのカバーエリアは、全国をあまねくカバーしてほしいというニーズよりも、特定の産業や特定の地域をカバーしてほしい要望の方が大きくなり、4Gとはカバーエリアの広がり方が違ってくるかもしれないと思っています。
EETJ カメラを5Gでクラウドに接続して、スマートな社会が実現できるという考え方もありますね。
佃氏 5Gの基地局に対し、数十個のカメラが接続されるのであればよいですが、数百、数千の高精細カメラが接続されると、5Gといえども対応できません。ですので、カメラ側にAIチップを入れて処理し、その結果をテキストベースのデータとしてクラウドに貯めるということをオペレーターとして提唱しています。
だからこそ、エッジで処理ができ、環境に耐えられるデバイスを作ってほしいと思っているわけです。
また、IoTの全てに5Gが使用されるとは、考えていません。5Gを使用するモノに関してはバッテリー駆動では難しい場面もあると考えています。バッテリー駆動の機器では、消費電力の小さいナローバンドの無線を使用し、常時電源が供給されリアルタイム性が求められるモノでは5Gが使用される、というような無線の使い分けも重要な観点だと思われます。
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