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見張れ! ラズパイ 〜実家の親を熱中症から救え江端さんのDIY奮闘記 介護地獄に安らぎを与える“自力救済的IT”の作り方(3)(5/7 ページ)

IT介護(見守り)に対する考え方は、主に2つあります。「ITを使ってまで見守る必要はない」というものと、「あらゆる手段を使って見守る必要がある」というものです。今回は後者の考えを持つ方のために、「DIYの実家見守りシステムをラズパイで作る方法」をご紹介したいと思います。

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ラズパイで作る「実家の見守りシステム」(本気度:高)

 では、ここからは後半になります。

 後半では、Amazonで5000円程度で購入できる、シングルボードコンピュータ「Raspberry Pi」(ラズベリー パイ、以下ラズパイという)を使った、実家の老親を見守る基本システムの作り方をご紹介したいと思います。

 当初は、お正月の帰省の際に、「あなたが、あなたの親御さんお実家に置き去りにしていく見守り装置」 ―― とするつもりだったのですが、2019年11月に私の都合で休載にさせて頂いたので、お正月の線は諦めてください。

 今回のシステムでは、クラウドは使わずに、あなたの自宅のパソコン(インターネット環境があること)と、ラズパイの見守り装置だけの構成とします。

 まず、この見守りシステムの狙いですが、(1)そこそこの費用で作れること、(2)メンテナンスが面倒くさくなく、加えて自宅からのリモートメンテナンスが可能であること、(3)実家に新しいインターネット回線の敷設工事をするなどの、大げさなことはせずにすむこと、そしてなにより、(4)DIYで作れて、ラズパイで遊べて、Linuxの勉強にもなることを目指します。

 私の周りの若手の研究員たちを見ていると、「ラズパイ」を購入してみたはいいが、使い道がなくて、そのまま放置していることが多いようです(1980年代後半、NECのコンピュータPC-9801シリーズの9割が、一回箱から出された後、そのまま、押し入れにしまい込まれていた、という状況と同じです)。

 しかし「ラズパイ」を使った実家の見守りシステムが、現在の実家の老親の、そして、さらに将来の自分の介護に役に立つと考えれば、最後まで作りきって活用するモチベーションになると思います。

 では、まずは購入リストを示します。

物品 品名 価格/購入先
ボードコンピュータ ■Raspberry Pi 3 Model B V1.2
または、■RSコンポーネントRaspberry Pi 3 B +マザーボード
7681円(Amazon)/
9200円(Amazon)
通信モジュール ■4GPi(ラズベリーパイ用4G(LTE cat.4)通信モジュール) 27500円(Amazon)
SDカード(32GB) ■SanDisk microSDHC ULTRA 32GB 80MB/s SDSQUNS-032GClass10 592円(Amazon)
SIMカード ■イプシム・プリペイド 固定IPアドレスSIM 無制限タイプ 12ヵ月(nano SIM) 1万6500円(Amazon)
ACアダプタ ■65W級スイッチングACアダプター12V5A GF65I−US1250 1850円(秋月電子通商)
スペーサ ■サンハヤト
Raspberry Pi用スペーサー (黄銅製、M2.6、11mmt)MPS-M2611
300円(千石電商)
2セット
スイッチ、GPSレシーバ、センサ等搭載ボード ■プラスチックボード 百均で購入した下敷きを切り出した
スイッチ ■薄膜パネルスイッチ [HC-543-3] 1 195円(aitendo)
SDカードリーダ ■SDカードリーダー, atolla USB3.0 メモリカードリーダー CF/SD/マイクロ SD/TF/MS/SDXC/SDHCカード対応、超高速転送 1299円(Amazon)

 イプシムSIMは、かならず固定IPが付いているものを購入してください。自宅PCから、ラズパイに直接SSHでログインできるようにするためです。

 その他、Windows用PC、ディスプレイ(HDMI対応)、キーボード/マウス(USB対応)を準備し、PCには、Win32DiskImagerTeraTermをダウンロードしておいてください。

 では、構築手順を以下に記載します(ちなみに以下に記載するIPアドレスの値はダミー値です)。


完成予想形です

[Step 1] 通信モジュール(4GPi)対応のWindowsPCにラズパイイメージをダウンロードする

 こちらのサイトから、「4gpi-buster-lite-20190820.zip」をダウロードし、解凍して「4gpi-buster-lite-20190820.img」を入手してください。

[Step 2] Win32DiskImager を使って、SDカードに、4gpi-buster-lite-20190820.imgを書き込む

 ちなみに、私は、このWin32DiskImagerの"READ"と"WRITE"を間違えて、4年分の大切な映画のコンテンツを台無しにするという”痛い”思い出があるので、十分に注意してください。

[Step 3] ラズパイに[Step 2]で作ったSDカードを差し込み、4GPiを合体させる

[Step 4] 4GPiに通信SIMを差し込む

 見にくいですが、黒いソケットのところに、「←OPEN」「LOCK→」という記述があるので、そっちの方向にずらすと外れます(力づくで剥さないように注意してください)。

[Step 5] 配線する

 4GPiに12V/5Aの電源から給電する(5Aはかなり大げさですが、ラズパイは電力不足になると簡単にリブートを繰り返します。電源問題で不安にならない為にも、この程度の電源があれば安心です)。なお4GPiから給電すれば、ラズパイへの給電は不要になることにも留意してください。

[Step 6] 電源を入れて、ログインする

 12V/5Aの電源を差し込むと、ディスプレイにブートメッセージが表示されるはずなので、ログインプロンプトが出るまで待って、ログイン"pi", パスワード"MechaTracks"でログインして下さい。

 パスワード等を変更しておきたい場合は、

$ sudo raspi-config

をして、設定してください。この他、地域、言語、タイムゾーンを設定する時なども、このコマンドを使うと、簡単に設定できます。

 設定方法については、このページがお勧めです。

[Step 7] 通信SIMの設定(イプシムSIMのAPNを設定)をする

 上記の情報をそのままコピペして設定してください。

$ sudo nmcli con add type gsm ifname "*" con-name ipsim.net apn 4gn.jp user sim@with password sim (改行なしの1行で記載)

 以前の情報が残っている時には、うまくつながらない場合があります。

 この場合は、次の処理をしてください。

$ nmcli con
gsm-3gpi-dis  bc08c9b1-ad95-4428-8b86-f9c2d03856c0  gsm   cdc-wdm0
ipsim.net     08ed3b52-973f-47cb-844b-42589655c60a  gsm   --

 この一番上の設定を消すには、以下のようにします。

$ nmcli connection delete gsm-3gpi-dis
Connection 'gsm-3gpi-dis' (bc08c9b1-ad95-4428-8b86-f9c2d03856c0) successfully deleted.

として、設定が消え、残った方の設定で動き出します。

[Step 8] 通信SIMの稼働確認をする

 以下のコマンドを入力してみてください。

$ 4gpi-nm-helper show default all
4gn.jp sim@with sim
$ nmcli con
NAME       UUID                                  TYPE  DEVICE
ipsim.net  40bdff2d-d4a7-4275-bdfd-56f2da54a383  gsm   cdc-wdm0
$ ifconfig wwan0
wwan0: flags=4305<UP,POINTOPOINT,RUNNING,NOARP,MULTICAST>  mtu 1500
        inet 211.158.177.150  netmask 255.255.255.252  destination 210.156.174.146
        unspec 00-00-00-00-00-00-00-00-00-00-00-00-00-00-00-00  txqueuelen 1000  (UNSPEC)
        RX packets 804  bytes 149274 (145.7 KiB)
        RX errors 0  dropped 0  overruns 0  frame 0
        TX packets 810  bytes 172876 (168.8 KiB)
        TX errors 0  dropped 0 overruns 0  carrier 0  collisions 0

 こんな感じの情報が表示されていれば、通信カードは起動しているはずですが、念の為に、江端のWebサーバにでもpingを打って通信を確認してみてください。

$ ping kobore.net
PING kobore.net (49.212.198.156) 56(84) bytes of data.
64 bytes from www2916.sakura.ne.jp (49.212.198.156): icmp_seq=1 ttl=50 time=154 ms
64 bytes from www2916.sakura.ne.jp (49.212.198.156): icmp_seq=2 ttl=50 time=146 ms
64 bytes from www2916.sakura.ne.jp (49.212.198.156): icmp_seq=3 ttl=50 time=124 ms

[Step 9]SSHを有効化する

 あなたの自宅のPCから、実家に置き去りにしてくるこのラズパイを、SSHで直接操作できるようにするためです。

$ sudo raspi-config

として、

の、"5 Interfacing Options"を選択して、"P2 SSH"から"YES"を選択すれば完了です。

[Step 10] SSHで、自宅のPCからラズパイへのアクセスする

 これは、インターネットに繋った約300億個といわれるIoTデバイスに、このラズパイを指定してアクセスすることです。それ故、今回は「固定IPを金で買う(500円/月)」という手段を取りました。

 これ以外の方法もありますが、構築に500円/月では見合わない苦労をします(著者のブログ1ブログ2

 以前、SORACOM(https://soracom.jp/)を使って、1カ月間VPNを使っていたら、通信料が4万円近くになっているのに気がついて、青冷めて、速攻で解約しました(ちなみに、VPNのKeep-aliveメッセージに気が付かなかった私が悪い。SORACOMは悪くない)

 今回採用した「イプシムSIM」は、低速ですが、固定IPアドレスが付いて、通信料無制限で950円/月です。実家のセンサー情報やGPS情報(次回以降に構築)を送付し、コマンドでリモートメンテナンスするだけなら、この通信速度で十分です。

 それはさておき。

 前述した、

$ ifconfig wwan0
wwan0: flags=4305<UP,POINTOPOINT,RUNNING,NOARP,MULTICAST>  mtu 1500
        inet 211.158.177.150  netmask 255.255.255.252  destination 210.156.174.146

の、"211.158.177.150"が、このラズパイの固定IPになります。このIPアドレスを使って、自宅のPCのTeraTermからラズパイへのアクセスをします。

 この後、ログイン名とパスワードを入力すれば、ラズパイが日本中のどこにあろうとも、ログインして作業することが可能となります。

 これで、最小構成のDIY介護ITプラットフォームは完成です。次回以降、ここに、センサーやら無線LANのアクセスポイントやら、スイッチやらを搭載していきます。

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