自然冷却で実用できる有機熱電モジュールを展示、世界初:低温の熱源に置くだけ(1/2 ページ)
産業技術総合研究所(産総研)は「第19回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」(2020年1月29〜31日/東京ビッグサイト)で、「世界で初めて開発した」(同所)とする自然冷却で実用可能な有機熱電モジュールを展示した。
産業技術総合研究所(産総研)は「第19回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」(2020年1月29〜31日/東京ビッグサイト)で、「世界で初めて開発した」(同所)とする自然冷却で実用可能な有機熱電モジュールを展示した。
工場や住宅から出る排熱などの未利用熱エネルギーを活用した発電の研究開発は長く進められてきた。近年、再利用技術の高度化に伴って、「残された未利用熱」は200℃以下と低温度化しており、有機熱電材料の研究が注目されている。
産総研によると、従来、有機熱電材料を用いた熱電モジュールは、自然冷却だけでは十分な温度差をつけられず、放熱フィンやヒートシンクを取り付けて強制的に冷却している。有機熱電材料はP型のみ安定して得られるため、ユニレグ型モジュールを作製する必要があり有機熱電材料の高温部分と低温部分を導電部材でつなぐのだが、導電部材の熱伝導性がよいことが要因となり、温度差が作りにくくなっているのだという。
そこで産総研ナノ材料研究部門ナノ薄膜デバイスグループ主任研究員、向田雅一氏らのグループは、電気抵抗を増やさず熱抵抗を最大限増加させるようにモジュールを設計し、「世界で初めて熱源に設置するだけの自然冷却で有機熱電モジュールの実用的使用を可能とした」(同所)という。
構造の工夫で課題を克服
具体的な構造としては、有機熱電材料として厚さ50μmの薄膜状にした「PEDOT/PSS」100枚、導電部材として厚さ5μmのニッケル箔99枚を、接合部分を除き絶縁性高分子膜(ポリイミドフィルム)で挟んだ形を取っている。
モジュールの構造について。またPEDOT/PSSは高い伝導率があることで知られるが、同グループでは膜形成の段階で、エチレングリコールなどを添加する手法を用いることで、秩序だったナノ結晶粒子の配列を形成。従来よりさらに導電性を向上させているという(クリックで拡大) 出典:産業技術総合研究所
PEDOT/PSSとニッケルとの電気抵抗を抑えるためには、接合部分はできるだけ大きくする必要があるが、大きければその分熱伝導率が上がり、温度差が生まれにくくなる。また、ニッケル自体の熱伝導を抑えるためには電極の間の面積はできるだけ小さくする必要があるが、そうすると今後は電気抵抗が増加してしまうという問題がある。
同グループは、このニッケル箔の面積などについて、電気抵抗と熱抵抗のシミュレーションをし、それぞれに適切な値があることを発見したという。さらに、熱源とモジュールの接触も工夫しモジュールに伝わる熱効率の向上も実現。結果として、100℃の熱源を用い、50℃の温度差で約40μW/cm2の出力密度を実現する有機熱電モジュールの作製に成功したとしている。
【訂正】初出時、出力密度の単位に誤りがありました。お詫びして、訂正致します。(2020年2月17日午前9時56分/編集部)
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