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CASE時代のクルマ産業、ボトルネックになり得る半導体は何か湯之上隆のナノフォーカス(22)(2/4 ページ)

CASE(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric)の波が押し寄せている自動車産業。それに伴い、1台当たりのクルマに搭載される半導体の量も増加の一途をたどっている。では、そんなCASE時代の自動車産業において、“ボトルネック”となり得る半導体とは何か。

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コネクテッドされた自動運転車は半導体の塊

 「レベル4〜5」のコネクテッドされた自動運転車には、どのような装備や半導体が必要になるだろうか?(図2)。


図2:コネクテッドされた自動運転車は半導体の塊となる 自動車の画像出典:Waymo(クリックで拡大)

 まず、クルマの周囲の状況を認識するために、ミリ波レーダーや赤外線レーダーなどを複数搭載することになる。また、CMOSイメージセンサーを内蔵したカメラを10個程度、クルマの外周部に設置する。コンシューマー向けのCMOSイメージセンサーではソニーが世界シェア1位であるが、車載など産業用のCMOSイメージセンサーでは米ON Semiconductorがトップシェアである。

 それから、現在のクルマにも100個程度のマイコンが搭載されているが、「レベル4〜5」のコネクテッドカーでは、その数がもっと増えるかもしれない。そのマイコンのIP(Intellectual Property)はArmがスタンダードとなっており、それを基にオランダNXP Semiconductors、ドイツInfineon Technologies、ルネサスなどがマイコンを設計し、製造している。

 そして、GPSから位置情報を入手したり、ホストコンピュータから最新の地図情報をダウンロードしたりするために、5G(第5世代移動通信)用通信半導体が必要不可欠になる。現在、5G通信を行う半導体を設計できるのは、Huawei傘下のHiSiliconと米Qualcommの2社しかない。その5G用通信半導体を最先端の7nmプロセスで製造できるのは、TSMC1社だけである。

 さらに、位置情報、地図情報、各種センサーからの膨大な情報を基にして、瞬時に、走る、曲がる、止まることを判断するディープラーニング機能を強化した人工知能(AI)が必要となる。AI自体は一種のソフトウェアであるため、以下ではAI(OS)と呼ぶことにする。従って、このAI(OS)が動作するためのAI半導体が必要不可欠になる。

 一時期は、AI半導体として、米NVIDIAのGPUをベースとした“DRIVE PX”というモジュールを使うクルマメーカーが多かった。しかし、最近は、Google、Tesla、Appleなどが、自前でAI半導体を設計している。それらは、TSMCの先端プロセスを使って製造されている。

 PCでは、Microsoft(マイクロソフト)のWindowsとIntel(インテル)のプロセッサが市場を独占した。そして、この両者は、“ウインテル(Wintel)連合”と呼ばれた。しかし、AI(OS)とAI半導体については、どこがデファクト・スタンダードになるかは、まだ決まっていない。その勝負は、始まったばかりである。

 ただし、どこのAI(OS)とAI半導体が主流になったとしても、高速DRAMとSSD(つまりNAND型フラッシュメモリ)が大量に必要になるのは間違いないだろう。

完全自動運転システムの概要

 以前どこかのシンポジウムで、NVIDIAとAudiが自動運転システムを構築しているという発表を聞いた。その記憶を基に、筆者が理解している完全自動運転システムの概要を説明する(図3)。


図3:完全自動運転のシステムの概念 (クリックで拡大)

【1】 十分にラーニングしたAI(OS)およびAI半導体を搭載した自動運転車を市場に投入する。

【2】クルマのスイッチがONになった瞬間に、AI(OS)が起動し、5G通信によりコネクテッドされる。そして、GPSから位置情報を入手し、ホストコンピュータから最新の地図情報をダウンロードする。また、AI(OS)も最新版にアップデートされる。

【3】このような自動運転車が1万台販売されているとする。各クルマは、常に5Gでコネクテッドされており、GPSから位置情報を入手している。

【4】そして、1台1台のクルマが自動運転走行しながら、各クルマのAI(OS)がディープラーニングを行い、より安全で賢いAI(OS)に進化し続ける。

【5】しかし、各クルマのラーニングにはバラツキがある。そこで、1万台のクルマのラーニング結果を5G通信によりホストコンピュータに集約する。

【6】ホストコンピュータでは、集約したラーニング情報を基に、AI(OS)を最新版にアップデートし、それを1万台全てに5G通信で配信する。

 このように、各クルマに搭載されたAI(OS)はエッジAIとして機能し進化するが、ホストコンピュータにおいても中央集権的なAIが常に最新のAI(OS)にアップデートし、各クルマにそれを配信する。そして、完全自動運転車が売れれば売れるほど、そのクルマが走行すればするほど、ラーニング結果が集積され、より安全で賢い自動運転走行を行えるようになるわけだ。

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