新型コロナのエレクトロニクス業界への影響はどの程度か:大山聡の業界スコープ(26)(2/2 ページ)
新型コロナウィルス拡散が半導体/エレクトロニクス市場、さらにはマクロ経済にどれほどの影響を与えうるのだろうか。ある程度の前提を定めた上で、おおよその影響を定量化してみたい。
新型コロナウイルスの業界への影響は?
さて、では今回のコロナウィルスの影響をどう見るべきだろうか。SARSよりも感染力が強いらしく、同じように考えるのは乱暴かもしれないが、4月前後にピークを迎える、という専門家の予測を前提に、今のような状況が2020年前半6カ月間継続すると仮定してみよう。
本連載の前回記事で述べた通り、筆者は2020年の半導体市場成長率を20%以上とみている。この予測がコロナウィルスでどれだけ影響を受けるだろうか。
2019年後半からメモリの供給過剰感が徐々に緩和されつつあること、今年は第5世代移動通信(5G)サービスの開始でスマホ需要が活性化しそうなこと、PCもWindows7のサポート終了で買替え需要が期待できること、などが強気予測の根拠だ。今回の影響でスマホやPCが予定通り生産できるのか、がポイントになる。
世界で流通しているスマホの約7割が中国で生産されており、PCに至っては9割が中国産である。その中国において、現在多くの工場が操業停止に追い込まれている。世界最大の電子機器受託製造企業であるHon Hai(鴻海精密工業)は、iPhoneやDELLのPCなどを受託生産しているが、同社工場の稼働率は50%程度に留まっているという。
元々大手スマホメーカーやPCメーカーの多くは、米中貿易摩擦への対応策として、生産委託先を中国以外の東南アジア諸国に変更することを検討していた。ただ、月産何百万台、何千万台という大規模なラインを新たに確保することは容易ではなく、中国での生産に依存する体制が続いていた。今回の事態の終息が長引けば、大きな打撃は避けられないだろう。
半導体市場は2ケタ成長する
世界半導体市場統計(WSTS)によれば、2019年の世界半導体市場規模は4121億米ドル、このうち中国市場は35.1%、中国を除くアジア市場は27.5%を占めた。仮に中国国内のPCやスマホの生産ライン稼働率が50%に留まれば、単純計算では17〜18%の半導体需要が消滅することになる。生産地の移転やウィルス問題終息後の回復などを考慮すれば、ここまで極端な影響はないと考えるべきだろう。例年より長めの春節を終えた中国では、様子を見ながらも工場の稼働再開を早めようとする動きもある。半導体需要への影響は最大でも10%程度に留まるのではないか、と筆者は予測している。もう少し詳細に申し上げれば、今年前半は10%以上の影響を覚悟する必要はあっても、後半に事態が終息することを条件として、前半の落ち込みをある程度カバーすることが可能ではないか、とみている。
仮に10%程度の影響があるとすれば、「2020年の半導体成長率は20%以上」という筆者の予測を「10%以上」に下方修正する必要がありそうだ。元々、WSTSの「2020年は5.9%増」などという保守的な予測には賛同しておらず、「コロナウィルスの影響を考慮しても、半導体市場は2ケタ成長する」という見解を改めて主張させていただきたい。2003年の「SARSの影響があっても18.3%成長した」という実績を意識しているのは事実だが、「ウィルス感染を正しく恐れる」「必要以上に萎縮しない」ことが重要だろう。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 2020年の市況を占う ―― WSTS、SEMIの予測は保守的すぎる!?
2020年はどんな年になりそうなのか。半導体デバイス、半導体製造装置業界の2020年見通しについて考えてみたい。 - 専用半導体の開発や設計を行う新会社設立
ヘリオス テクノ ホールディングは、顧客別専用半導体の開発や設計を行う新会社「CCD Techno」を設立し、2020年1月より業務を開始すると発表した。 - マーケティングオートメーションが半導体商社を危機に追い込む現実
Texas Instruments(以下、TI)は、長年にわたり販売代理店として提携してきた半導体商社との販売特約店契約の終了を相次いで発表している。長年、半導体商社との連携を重要視してきたはずのTIが、なぜこうした代理店リストラを実施しているのか。今回は、この辺りの事情と今後の見通しについて考えてみたい。 - アナログやパワーデバイスでも、ファブ活用の価値はある
2019年7月23日付掲載の記事「90nmプロセスの多用途展開を加速するMaxim」は、興味深い内容だった。Maximは大手アナログICメーカーとして著名なIDM(垂直統合型)企業だが、ファウンダリメーカー(以下、ファウンダリ)の活用に関しても積極的だと聞いており、筆者はこの記事を読み「なるほど」と合点がいった。そこで、今回はファウンダリの活用方法について、私見を述べたいと思う。 - 不可解なルネサスの社長交代、その背景には何が?
2019年6月25日、ルネサスエレクトロニクス株式会社は、呉文精氏に代わって、柴田英利氏が社長兼CEOに就任する、と発表した。業績が低迷する同社において、今このタイミングで社長を交代する必要性が本当にあったのか、むしろ社内が余計に混乱するのではないか、という疑問を禁じ得ない。呉文精氏の「続投」が決定していた同年3月20日の株主総会から3カ月の間に、社内でいったい何があったのだろうか。 - 米中が覇権を争う今、日本企業は中国と提携するチャンス
米国と中国の通信インフラを巡る覇権争いが過熱している。そうした中で、日本企業は、米国の方針に追随するしかないのだろうか。