中国が中国をパクる時代に、“別物Mate30 Pro”を分解:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(42)(3/3 ページ)
今回は、定価の半値以下で購入したハイエンドスマートフォン「Mate30 Pro」の分解の様子を報告する。ただ、このMate30 Proは、正規品とはまったく違う“別物”だったのだが――。
半導体チップの素性を調査
図6はそれぞれのメモリの様子である。
正規品のHuawei Mate30 Proには8GバイトのLPDDR4Xと弊社が実際に分解したモデルでは128GバイトのNANDフラッシュが搭載されている。しかし左側の別物には1世代前の規格であるLPDDR3の2Gバイト容量品、NANDフラッシュは16Gバイト品が搭載されていた。注文時に記載されていた「8G」「256GB」との表記はメモリ容量のことではなかったようである・・・・・・。仮にこの表記はメモリ容量だとしたら、DRAMは4分の1、フラッシュストレージは16の1しか存在しないことになる。
図7はプロセッサおよび、通信用トランシーバチップの様子である。正規品は7nmで製造されるHuawei傘下の半導体メーカーHiSilicon社製プロセッサ「KIRIN990」を採用し、通信用のトランシーバチップと2チップ化されている。ともに最新のプロセステクノロジーを使って製造され、最新のCPU、GPU、AI、通信を実現できるものだ。
一方で左側は台湾の半導体メーカーであるMediaTekが数年前に発売した激安スマートフォン向けのオールインワンチップである。1チップで簡易的なプロセッシングからGPSやWi-Fi、Bluetoothまでこなすというもの。通信用トランシーバまでも1チップされた多機能チップではあるが、コンピューティング能力は弱い。性能で言えば2010年代前半から中ごろのスマートフォンと同等だと思ってもらえばいい。オールインワンの非常に優れたチップなので、このチップには何の問題もない。スマートフォンでは能力的に弱い部分があるもののスマートウォッチやIoTのエッジ向けには最適なチップであることは確かだ。
このMediaTekのチップには4G、いわゆるLTE機能が備わっていないのだ。注文時に表記されていた「3G」「4G」のうち「4G」は対応通信規格を意味するならば、存在しないことになる・・・・・・。またしても、である。カメラにメモリ、そして通信機能さえも・・・・・・。
「最新」を模して売ることは悪質だが・・・・・・
調査会社をやっていて年間数百製品を購入すればこのようなことは時々ある。一番悪質なものは分解したら中身が空洞で何も入っていないものもあった。その事例はFacebookで公開したこともある。
その点からいえば今回のケースはそこまで怒るようなものではなく、正規品の半額以下ということで飛びついてしまった、こちら側にも非がないわけではない。
パクリ、偽物、モノマネ、フェイク、コピー品といろいろ呼び方はあるだろう。しかも中身は全くの別物。低機能の中身にもかかわらず、「最新」を模して売ることは、悪質だといえる。しかし分解しない限り分からない。ユーザーは思ったより通信が遅いなとか、4眼カメラの映像とはこんなものか、と受け入れてしまい、別物だと気がついていないかもしれない。
われわれは自らをホワイトボックスの請負人と呼ぶ。ブラックボックス化されるこの時代、少しでも分解などを通じてホワイト化していきたいからだ。ネット通販などで買ったスマホがやけに遅いと感じたら、それはひょっとすると・・・・・・。
最後にどうしても伝えたいことがある!!
今回報告の対象は中国Huaweiの製品である。従来、パクリ、コピー品の対象は、先行した日米欧メーカーの製品がほとんどであった。しかし今回のケースは「中国が中国をパクる」という構図だった!! それだけ中国製品が「先行する側」「魅力ある製品側」に立ったことを意味する。中国が中国をパクる時代。ますます中国製品のブランド力、先行性などのすそ野は広がっていることを読み取っておく必要があるだろう。このような事例は今後も伝えていきたい。
筆者Profile
清水洋治(しみず・ひろはる)/技術コンサルタント
ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
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