新型コロナの影響は不透明でもQualcommは安泰か:5Gスマホの需要増で
現在、「コンポーネント需要は、2020年後半に回復する」とされていた期待が徐々に薄れつつあるが、こうした中でQualcommは、例外的な存在となりそうだ。
現在、「コンポーネント需要は、2020年後半に回復する」とされていた期待が徐々に薄れつつあるが、こうした中でQualcommは、例外的な存在となりそうだ。米国の投資会社であるCanaccord Genuityによると、Appleの新製品発表や、スマートフォンの世界需要が上向いていることなどから、Qualcommは今後、長期的な5G(第5世代移動通信)投資サイクルによるメリットを享受できる見込みだという。
スマートフォンに搭載される電子部品/半導体部品が着実に増加している。こうした傾向は、今後も5Gによって確実に続いていくだろう。Canaccord Genuityは、「Qualcommは、5G市場において強力なリーダーとしての位置付けを確立しているため、大手スマートフォンメーカーとの協業によって大きなシェアを確保できるだけでなく、4Gスマートフォンに比べて、金額ベースで約1.5倍のビジネス機会を得られる可能性がある(単純にBOM[Bill of Material]が高くなる)。
それでもCanaccord Genuityは、2020年の世界スマートフォン売上高に関する予測を、以前は17億9000万米ドルとしていたが、今回14億8000万米ドルに下方修正した。また、4〜6月期のスマートフォン出荷台数予測も、4億400万台から3億2300万台に下方修正している。同社の予測によると、Qualcomm製チップの搭載数も、5G端末の出荷台数が増加するに伴い、順調に増えるとみられ、2020年後半には、QualcommとAppleが再び全体的な市場シェアを獲得する見込みだという。
またアナリストたちは、「米国第9巡回区控訴裁判所は、Qualcommの長期的な事業を保護すべく、米連邦地方裁判所のLucy Koh判事が下した米連邦取引委員会(FTC)判決の主要部分を覆すのではないか」とみているようだ。Qualcommは、5Gライセンスなどを保有していることから、既存のライセンス事業を維持していく上で強力なチャンスを確保している上、世界中で構築が進んでいる5Gネットワークのメリットを享受することが可能な、安定した位置付けにあるといえる。
サプライチェーンの状況は、いまだ不透明
一方で、あらゆる部品メーカーにとって、エレクトロニクスサプライチェーンに関する状況については全く不明のままだ。米国の電子部品の製造・流通に関わる業界団体である電子部品産業協会(ECIA:Electronic Components Industry Association)が2020年2月7日に実施した調査によると、大半の部品メーカーが、今回の新型コロナウイルスによって、自社の顧客への供給能力にどのような影響が及ぶことになるのか、全く分かっていないという。2020年2月21日までに調査に回答したメーカーによれば、「コロナウイルスによる影響は、最小限から中程度になる見込みだ」と答えたという。
ECIAでチーフアナリストを務めるDale Ford氏は、開催したウェビナーの中で、「調査に回答した、電子部品を扱う事業セグメント『IP&E(コネクター、受動部品、機構部品)』の大半は、リードタイムが2週間以上に伸びる見込みだと答えている」と述べる。半導体メーカーも、リードタイムが長くなると予測しているようだ。
Ford氏は、「IP&Eに関しては、2つの調査の間に見通しが上向いてきた。ただ、半導体メーカーは今後も見通しに関する苦悩が続くだろう」と述べる。
同氏は、「半導体は、幅広い部品業界に対して代理役を担うことができる。2020年1月末までは、『半導体業界は、2020年前半に成長段階に突入し、新しいサイクルに入っていく』と楽観視されていた。しかし、コロナウイルスに対する懸念が高まり、このような楽観的な見方は影をひそめている」と説明した。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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