スマートカーが200mmファブを進化させる:新世代200mm装置の導入も進む
急速な成長を続ける車載半導体市場によって、200mmウエハー対応工場(=200mmファブ)への需要が拡大、新世代の装置も登場してきました。
業界の潮流は、PC向けマイクロプロセッサやメモリの製造から、今ではクラウドコンピューティングやAI(人工知能)、機械学習、VR(仮想現実)、ロボティクス、医療機器、モバイル機器、IoT(モノのインターネット)、そして自動車向けのチップ供給へと変容しつつあります。IC Insightsによると、特に自動車については、現時点ではPCやモバイル機器より市場シェアが小さいものの、2021年までの5年間の複合年間成長率は約14%と、非常に高い成長が予測されています。
自動車メーカーは自動運転車の実現を最終的な目標としていますが、完全自動走行システムが一般に普及するには、少なくとも10年はかかるというのが一般的な見解です。普及のためには、そのサポートのために開発が求められる多岐にわたる技術とインフラストラクチャが必要となります。要件が多様なことから、半導体製造装置メーカーをはじめとする新たな業界プレーヤーと自動車メーカーの協力は、成功に不可欠な要素になるでしょう。
最先端プロセスより、多様性への適応を重視
車載用ICにはさまざまなデバイスタイプがあり、全体の75%超がマイクロプロセッサ/コントローラー、アナログおよび、センサーで構成されています。これらのセグメントとメモリは、大きな成長の可能性を示しています。そのため、主にデジタルマイクロプロセッサおよびメモリ用に開発された最先端の製造ラインよりも、多様性に適応可能な200mmウエハー対応ライン(200mmライン)の製造への需要が高まっています。
また、自動車メーカーも信頼性に対する要件を厳しくしています。ある分析では、部品レベルで故障率が100万個に1個である場合、自動車1000台につき7件の故障が発生することになります。これは、1日に4000台の自動車を製造する会社にとっては、1時間に1件の故障が発生する計算になります。IHS Markitによると、2018年における小型乗用車の世界の販売台数は9590万台と予測されており、1%のリコールで約100万台の車両に影響が出ることになります。自動車業界が先頭を切ってPPB(十億分率)故障率を促進していることは、それほど驚くことではありません。
車載用ICは、プレーナー型CMOSおよびメモリデバイスとはさまざまな点で異なります。それらは多くの場合、複数の技術を組み込んでいることが多く、200mmファブ(工場)で非常に経済的に生産されています。
自動車のための新しいセンシングおよびアクチュエーター技術は、ワイドバンドギャップ半導体や圧電材料素子などの新しい材料を使用することになります。新しい形状および深層特徴を加工するには、厳密に制御されたエッチング能力が必要となります。パッケージ内のシステムまたは積層ダイを接続する高度なパッケージング工程は、フットプリントをより小さくするためにTSV(シリコン貫通電極)方式に依存します。
300mm装置の教訓生かした新世代200mm装置の導入
このような課題に対処するために、生産設備メーカーは、最先端の300mmウエハー対応装置から学んだ教訓を取り入れた新世代の200mm装置を導入しています。例えば、MEMSやパワーデバイスによく見られる多様な形状および深層特徴を加工するためのエッチング装置には、さらに大きな電力処理能力、改善したソフトウェア、さらなる制御機能、調節可能なガス供給、高度なエッジ均一性機能、強化されたウエハー冷却オプションが取り入れられています。
自動車の需要はまた、生産性、性能、自動化および寿命を改善するため、既存の200mmファブに圧力をかけています。こういったニーズは、300mm装置から得た知見を活用し、設置済みの装置をアップグレードすることによって対処できます。性能の強化に加えて、設置済みの装置をアップグレードすることで耐用寿命が延び、陳腐化のリスクを軽減することもできます。
装置メーカーは300mmプロセスから得た教訓を生かし、自動車およびその他システム向けのMEMSやパワーデバイスについて将来直面する最も困難な課題を解決しなければなりません。また、CMOSとミックスドシグナルICの両方に必要とされる技術の多様性に対処するために、包括的なソリューションを提供する必要があります。新規装置と設置済みの装置の両方に対してこういった改善を行うことで、部品メーカーは200mmファブの寿命の延長と資本効率の最適化を実現できるようになります。
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