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脳型コンピュータはAIチップと競合するのか?各社CEOの見解を聞く(1/2 ページ)

新しいニューロモーフィックチップは、同様に最先端の分野であるAI(人工知能)アクセラレーターは、“競合”となるのか。ニューロモーフィックチップやAIアクセラレーターを開発する企業のCEOに、見解を聞いた。

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 新しいニューロモーフィックチップは、同様に最先端の分野であるAI(人工知能)アクセラレーターと幾つかの共通点を持っている。どちらもニューラルネットワークの処理に向けられていて、CPUと比較すると処理性能が向上しており、電力効率が高いとされている。

 ただし、共通点はそこで終わっている。ニューロモーフィックチップは、SNN(スパイキングニューラルネットワーク)の構築に向けて設計されており、その構造は従来のコンピュータとは根本的に異なっている。ニューロモーフィックチップ市場の今後を予測するのは、新しいアプリケーションや技術が続々と登場しているので、まだ時期尚早かもしれない。

 EE Timesは、高性能AIアクセラレーターを手掛けるメーカーに、「ニューロモーフィックチップとAIアクセラレーターチップは、完全に補完的なものなのかどうか」を尋ねた。大きな疑問点としては、「このようなコンピューティングパラダイムはこの先、相互に競合することになるのか」、ということが挙げられる。

Intelの見解

 Intelの場合、そのように考えてはいないようだ。同社は、ニューロモーフィックコンピューティング分野では「Loihi」チップを開発している。AIアクセラレーターとしては、幅広い種類のデータセンター向けCPUを取りそろえる他、AIアクセラレーターメーカーHabana Labsを買収するなど、両分野においてリーダー的役割を担っている。


IntelのMike Davies氏

 Intel Labsでニューロモーフィックコンピューティング担当ディレクターを務めるMike Davies氏は、「ニューロモーフィックコンピューティングが、Habana Labsの製品をはじめとする既存のAIアクセラレーターに対して、全てにおいて匹敵するとは思えない。ある分野において有用というだけだ」と述べている。

 既存のAIアクセラレーターは、ディープラーニング向けに開発されている。ディープラーニングでは、大量のデータを使用して大規模ネットワークのトレーニングを行うため、膨大なI/O帯域幅とメモリ帯域幅を必要とする。

 Davies氏は、「ニューロモーフィックモデルは、これとは全く異なり、個々のデータサンプルを処理する。実世界のデータがチップに到着すると、その場で瞬時に、最低限のレイテンシと最小限の消費電力量で処理される」と述べる。

Kalrayの見解


KalrayのEric Baissus氏

 AIアクセラレーターに関しては、フランスKalrayのCEOであるEric Baissus氏が、「当社のMPPA(Massively Parallel Processor Array:超並列プロセッサアレイ)アーキテクチャと、現在台頭している一部のニューロモーフィック手法との間には、類似点がいくつかある」と述べている。

 「ニューロモーフィックコンピューティングは、実に興味深い。このような新しい考え方は、当社の構想ととてもよく似ている。脳は、さまざまな機能を使って独自の計算を同時に実行し、それを少しずつ統合していくが、これは当社がアーキテクチャを開発した手法と非常によく似ている」と述べる。

 Kalrayの最新型チップ「Coolidge」は、データセンターや自動車用途向けのAIアクセラレーションとして使用することができる。Coolidgeは、純粋なAIアクセラレーターではないが、MPPAは、エッジコンピューティング全体の幅広い用途向けとして、AIアクセラレーションに適している。Kalrayは「CES 2020」(2020年1月7〜10日、米国ネバダ州ラスベガス)において、Coolidgeのユースケースに関するデモを披露している。

 Baissus氏は、「今後、興味深いニューロモーフィック製品が登場するようになると確信している。当社の技術は、このような種類のアプローチとよく似ているため、悪い傾向ではないと考えている。市場規模がかなり大きいため、さまざまな種類のアーキテクチャに向けたアプリケーションが登場するだろう」と述べる。

XMOSの見解


XMOSのMark Lippett氏

 英国に本拠地を持つXMOSのCEOであるMark Lippett氏は、「ニューロモーフィックコンピューティングが、特にIoT(モノのインターネット)機器やコンシューマーデバイスを扱うターゲット市場向けに実用化されるのは、まだ数年先になるだろう」と述べる。

 XMOSの「xCORE.ai」チップは、同社のIP(Intellectual Property)をAIアクセラレーターに搭載したもの。キーワード検出や辞書機能など音声インタフェース用途に向ける。xcore.aiは、クロスオーバープロセッサとして分類されるチップだ。アプリケーションプロセッサの性能と、マイコンの使い勝手の良さや低消費電力、リアルタイム動作性を組み合わせた利点を持つ。

 Lippett氏は、「いかなる技術も、プログラミングシステムの考え方が新しいものは、市場投入の際に障壁に直面することになる。RISCアーキテクチャベースのxCOREでさえ、そうだった」と述べる。

 「われわれの主な見解として、迅速な導入を実現するためには、慣れ親しんだ既存のプログラミングモデルに近い形にする必要があると考えている。難しいのは、こうした技術の利用を実現する上で、コスト面で利益を得ながら、既存コミュニティーのスキルへのアクセスも確保するという点だ。これができなければ、導入の実現はかなり遅れることになるだろう。当社としては、近い将来にニューロモーフィックコンピューティングと競合することがないということに安心している。しかし、ニューロモーフィックコンピューティングが非常に刺激的な、注目すべき技術であるということは明らかだ」(同氏)

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