Intel、1億ニューロンを組み込んだ脳型システムを発表:「Pohoiki Springs」
Intelは2020年3月18日(米国時間)、約1億ニューロンの演算能力を備えた新しいニューロモーフィックコンピューティングシステム「Pohoiki(“ポホイキ”のように発音) Springs」を発表した。
Intelは2020年3月18日(米国時間)、約1億ニューロンの演算能力を備えた新しいニューロモーフィックコンピューティングシステム「Pohoiki(“ポホイキ”のように発音) Springs」を発表した。Intelの第5世代ニューロモーフィック試験用チップ「Loihi」を768基を5Uラックマウントシャーシに搭載したシステムで、500W未満での稼働を実現している。これにより、従来のコンピュータで膨大な時間をかけて行う処理を高速化したり、より大規模で複雑な問題の解決に取り組んだりといったことが可能になる。
IntelはPohoiki Springsを、「Intel Neuromorphic Research Community(INRC)」のメンバーにクラウド経由で提供する予定だ。
Intelが2017年11月に発表したLoihiは、SNN(スパイキングニューラルネットワーク)アルゴリズム用に最適化したアーキテクチャ内に128個のコアを搭載したチップで、14nmプロセスで製造された。最大13万のニューロンと、1億2800万のシナプスが組み込まれている。Intelは「従来型のプロセッサと比較して、特定領域のワークロードを1000倍高速に、1万倍高効率に行える」と主張する。
INRCは、Intelの研究機関であるIntel Labsが、ニューロモーフィックコンピューティングの研究開発を促進、加速すべく創設したコミュニティーだ。IntelはINRCを通して、政府から企業、学術団体までさまざまな組織にLoihiを搭載したシステムを、プラットフォームとして提供している。2019年11月にはAccenture、Airbus、GE、日立製作所がINRCに加わり、現時点で約90の団体/組織がメンバーとなっている。
より汎用的な用途に使えることを目指す
Intel Labsでニューロモーフィック・コンピューティング担当ディレクターを務めるMike Davies氏は、2020年3月19日(米国時間で3月18日)にオンラインで開催した記者説明会で、Loihiが最も得意とするアプリケーションとして、地点AからBへ最短で移動する経路を見つけるといった制約充足問題や、グラフおよびパターンの検索を挙げた。グラフ検索では、LoihiはIntelのCPU「Xeon」に比べて最大100倍高速に行うことが可能だという。その他、Loihiが化学物質など特定の物質のにおいを判別できることも紹介した。
一方で、Loihiのプラットフォームを商用化するには、課題があるとDavies氏は述べる。同氏は「Loihiを搭載したシステムは、例えば化学工場で薬品の漏れをにおいで検知する、といった特定のアプリケーションで非常にうまく活用できるだろう。ただ、こうした用途だと、専門的過ぎて活用が限定的になってしまう。われわれとしては、あまりに専門的、限定的なアプリケーションよりも、もっと幅広く、汎用的な用途に使えるLoihiシステムの構築を目指している」と強調した。
Intelはニューロモーフィックコンピューティングシステムとして、2基のLoihiを搭載し、USBをサポートする「Kapoho Bay」や、32基のLoihiを搭載しIntelのFPGA「Arria 10」の開発ボードに接続できる「Nahuku」、64基のLoihiを搭載した「Pohoiki Beach」をラインアップしている。余談だが、Intelのニューロモーフィックコンピューティング関連のチップやシステムには、全てハワイにちなんで開発コード名が付けられている。例えばPohoikiはハワイ島の海岸の、Loihiはハワイ島南方にある海底火山の名称だ。
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