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1ミリでいいからコロナに反撃したいエンジニアのための“仮想特効薬”の作り方世界を「数字」で回してみよう(63) 番外編(5/7 ページ)

私は今、新型コロナウイルスに対して心底腹を立てています。とんでもなく立腹しています。在宅勤務が続くストレスと相まって、もう我慢ならん! と思っています。1ミリでいいから反撃したい。たとえ、その行為がコロナの終息に、直接的には少しも貢献しないとしても、自分が納得するための反撃の手段が欲しい――。そう考えていた矢先のことでした。あの“シバタ先生”から、予想の斜め上を行く提案を頂いたのは。

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未来を諦める必要は全くない

 あとは、注射なり、吸入なり、これを肺に届けて感染細胞内に届けることができれば、理論上はSARS-CoV-2のゲノムRNAは切断され、増殖できなくなります。

 ちなみに、アビガンのターゲットタンパク質の遺伝情報も(当然ではありますが)上記ゲノムに含まれています。

 「アビガン」――アビガンといえば、最近、ニュースで「ある芸能人の方が新型コロナウイルスに感染し、アビガンを処方された後に回復した」とニュースで登場した薬で、もともとは、抗インフルエンザ薬です。

 ただし、アビガンが、新型コロナウイルスに対して本当に効果があるかどうかは、現時点では不明(検証中)です。そもそも、新型コロナウイルス感染者の多くは、自然治癒するからです(そんでもって、無自覚感染者が、海岸やパチンコ店や観光地でウイルスをまき散らす、という事態になっているのは言うまでもありませんね)。

 今回の新型コロナウイルス感染症は

  • 無自覚
  • 味覚障害
  • 発熱
  • 相当な苦痛を伴う呼吸障害(ただし自力で呼吸可能)
  • 自力呼吸が不可能(人工呼吸器なしでは生きられない)
  • 強制的に体内から血液を体から抜き取り、酸素を含めた血液にしたあと体内に再投入(ECMOが必須)
  • 死亡

まで、さまざまな症状が報告されています。

 もちろん、新型コロナウイルス感染による致死率は2%(測定や推定方法で値はバラバラになります)という、インフルエンザの10〜20倍という、恐しい感染症です(参考)。

 しかし一方で、私たちが忘れていることは、新型コロナウイルス感染には、「死」の恐怖や、「人工呼吸器」「エクモ」の不足だけではなく、「激烈な苦痛」というリスクです(一説には「インフルエンザの高熱なんぞ、比較にならないほどの苦しみ」)。特に呼吸障害の苦痛というのは、尋常ではありません。

 私、小児ぜんそくを患ってきましたし、成人になってからも、まれに再発するのですが、「呼吸ができなくなる恐怖と苦しみ」はハンパなものではりません(現在でも、年間1000〜2000人の人がぜんそくで亡くなっています)。

 ニュースを見ている範囲では、アビガン投与後に「呼吸がラクになった」という話も聞いています。これが、「プラセボ効果」ということはないだろうと思います(思いたい)ので、このような話は、私のような、「ぜんそく」という爆弾を常に抱えている身の上としては、大変な福音でもあるのです。

 また、日本国政府が、「アビガン」を「希望する国に所要の量を無償で供与すべく調整を行っている」(4月3日)というニュースもありました。

 アビガンが「ゲノムから翻訳されたタンパク質」を阻害するのに対して、RNA干渉技術は、「アビガンのターゲットタンパク質が合成される前の遺伝情報そのもの」をつぶすことが出来ます。

 しかも、siRNA分子1個で数百から数千のウイルスゲノムを切断することができる、とされています。

 つまり、一発の弾丸で、数百から数千人を一気に殺傷できる「銀の弾丸」ということですね。

 もちろん配列によって効率の良し悪し、副作用の出やすいもの、出にくいものがあるので、江端さんに設計していただいたsiRNAの全てが薬に応用可能ではありません。

 しかし、実験レベルなら高効率のsiRNAの設計から投与手段まで、その全てが商業化されています。既にそれくらい一般的な技術になっているのです。決してシバタがすごいのではありません。一般向け(?)の記事が1カ月前に出ているくらいです。

 ぶっちゃけ、siRNAは大学の研究室なら誰でも通販(外注)で買えますので、市販の吸入装置と組み合わせれば、抗SARS-CoV-2薬は1週間程度で自作できます。

 ええっ!本当?*)

*)本当でした。例えば、こちらのサイトの79ページに、製品化されているsiRNAの話がてんこ盛りになっていて、大変勉強になりました。値段も、数万円から数十万円まで各種あるようです(ただ、siRANって、どういう製品で、どういう単位で販売されるのか、そして、どうやって使うのか、私にはさっぱり分かりませんが)。

 ただ、配列から副作用の少ないものを選ぶコツが必要ですし、細胞内へ核酸を移行させるために副作用の少ない方法を選択する必要があるので、一般の人は絶対に実行してはいけません。

 そりゃそうですよね。SARS-CoV-2を破壊できても、そこで別の病気(例:ガン細胞)を作り出してしまってはシャレになりません。

 もしも私自身が近い将来SARS-CoV-2で挿管する事になったら「このsiRNAを投与してくれ」と教室の同僚に遺言(?)を託して、一人臨床試験を敢行するつもりです。

 医師は薬を調合する資格があるので法的にも大丈夫、だったはず(多分)、です。・・・まあ、半分冗談ですが、その時の気分と死にかけ具合によっては本気で考えようかなぁ、と思っています。

 思考パターンが私(江端)に似ています、シバタ先生。

 もっとぶっちゃけて言えば、最適配列の計算アルゴリズムはこの数年で飛躍的に進歩していますし、そこから得られたsiRNAと既知の最適な吸入法などのドラッグデリバリーシステムとを組み合わせれば、製薬会社が本気を出せば効果がありそうなものだけでも1日で数十の新薬の候補が試験可能な現物として用意できるはずです。

 あ、これは、私のような「ITエンジニア」が批判されているのかな? 高速計算(組み合わせ最適化)のハードウェアやアルゴリズムは、ITエンジニアの管轄ですから。

 ただ、残念なことに、当たり前のことではあるのですが、その後の基礎試験、動物実験、臨床試験、申請など事務手続きで半年以上、量産化までに数カ月……やはり特効薬の登場までには1年ほどは待つことになるのかなぁ……と思っています。

 なるほど、そういうものですね。毎日、世界中で数百人以上の人が死んでいるのに、なんとももどかしい話です。

 現在、製薬会社が、効率の良さそうな配列をピックアップしてガンガン核酸医薬を開発中(のはず)です。

 一応、昨日調べたら、最低1社、SARS-CoV-2に対する核酸医薬開発のリリースを確認できました。この市場の混乱の中でも株価が上昇していました。株、持ってませんが。

 あとで、こっそり、私にだけ会社名を教えてください。

「医師といえども製薬の素人が1週間で試作品作れる(見込みな)んだぞ、製薬会社本気出してください」

「まさか素人でも設計できるsiRNA配列を特許で囲うようなまねをしていないでしょうね?」

「世界中の製薬会社、協力しあいましょう」

「ぶっちゃけ、この非常時に特許で技術を囲うなよ、共同開発して特許の開放数で利益を分配しろ」

「試験も共通化して時間短縮しろ」

「政治家仕事しろ」

と、心の中で思っております。

 後半、口が汚くなってしまいました。製薬会社の方々も、政治家の方々も、きっと新薬開発の効率化のために最善を尽くして頑張っているはずだと信じています。

 表現が粗いのは、やはり医師であっても、いや、医師であるからこそ、

人類が手にしている手段が、最大限に最高効率に利用されていない現状

に、焦りがあるのだと受け止めていただければと思います。

(滅多に見られないシバタ先生の激憤に圧倒されて、セリフが出てこない江端)

 最後に、上記内容はあくまでシバタの私見です。実際には、開発にあたって私の知らないハードルが数多く存在しているのかもしれません。

 取りあえず、人類の保有している知の集合は、SARS-CoV-2に対して、RNA干渉技術に限らず多数の対抗手段を実現するだけの能力を秘めていると言うことは、信じて良いと思います。

 未来を諦める必要は欠片もありません。

 ありがとうございました、シバタ先生。大変感動し、とても勇気が湧いてきました。

 私たちは、まだまだ、この闘いを諦めるフェーズではないのですね。

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