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1ミリでいいからコロナに反撃したいエンジニアのための“仮想特効薬”の作り方世界を「数字」で回してみよう(63) 番外編(6/7 ページ)

私は今、新型コロナウイルスに対して心底腹を立てています。とんでもなく立腹しています。在宅勤務が続くストレスと相まって、もう我慢ならん! と思っています。1ミリでいいから反撃したい。たとえ、その行為がコロナの終息に、直接的には少しも貢献しないとしても、自分が納得するための反撃の手段が欲しい――。そう考えていた矢先のことでした。あの“シバタ先生”から、予想の斜め上を行く提案を頂いたのは。

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「COVID-19共同戦線の可能性」を特許から読み解く

 ところで、江端さんにおかれましては、特許に大変詳しい人物であると存じ上げております。

 どうでしょう、COVID-19関連の特許権のみ国際的に特例的に開放されてCOVID-19共同戦線が展開される……そんな未来が来る可能性はありますでしょうか?

 あります。(ようやく、私が知っている内容になりました)

 日本国特許法の方では明文化されていませんが、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定、通称"Trips協定"において、国際的緊急事態における特許権の超法的(いや、法定されているから法的)措置の記載があったはずです。

 ええっと、今、見つけました。

Trips 第31条

(b) 他の使用は,他の使用に先立ち,使用者となろうとする者が合理的な商業上の条件の下で特許権者から許諾を得る努力を行って,合理的な期間内にその努力が成功しなかった場合に限り,認めることができる。加盟国は,国家緊急事態その他の極度の緊急事態の場合又は公的な非商業的使用の場合には,そのような要件を免除することができる。ただし,国家緊急事態その他の極度の緊急事態を理由として免除する場合には,特許権者は,合理的に実行可能な限り速やかに通知を受ける。公的な非商業的使用を理由として免除する場合において,政府又は契約者が,特許の調査を行うことなく,政府により又は政府のために有効な特許が使用されていること又は使用されるであろうことを知っており又は知ることができる明らかな理由を有するときは,特許権者は,速やかに通知を受ける。


 今回の新型コロナウイルス対策では、国内法(特許法)では、第93条1、2項が適用されると思います。

1 特許発明の実施が公共の利益のため特に必要であるときは、その特許発明の実施をしようとする者は、特許権者又は専用実施権者に対し通常実施権の許諾について協議を求めることができる。

2 前項の協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、その特許発明の実施をしようとする者は、経済産業大臣の裁定を請求することができる


(江端の解釈)

国家緊急事態に限っては、
(1)特許権者に使用許諾を求めて、その努力が認められなかった場合は、大臣の裁定で (by 日本国特許法第93条)
or
(2)上記(1)の「努力」なんぞ無視して構わん(by Trips第31条)ので、
その技術を使っても構わん。

という2通りの解釈が成り立つのですが、日本国特許法は、第26条で「国際法優位」が明文化されていますので、上記(2)の解釈「無視して構わん」で押し通せるはずです。

「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」第31条についての情報をありがとうございます。まさに、私の求めていた答えでした。

 これこそが、いつも「想定外」の一言で逃げ回っている、どこかの誰かに読んでいただきたい条文でした。



 前回、江端さんに公開していただいた私のメールでは、私は「未来に対する希望」をほとんど示すことが出来ませんでした(関連記事:「ある医師がエンジニアに寄せた“コロナにまつわる現場の本音”

 人によっては私の文章がストレスになったというかたもいらっしゃったのではないかと思います。

 今回のメールの出発点は、SARS-CoV-2のゲノムをズタズタに切り裂くsiRNA配列の設計を自分の手で行って頂くことで、「世界にはウイルスに対抗するための知恵があふれている」ことを実感してもらうことが目的でした。

 さらに、江端さんのおかげで、(私の理解が正確では無いかもしれないですが)世界が対COVID-19に関連する知的財産権を開放してSARS-CoV-2の根絶に共闘できる法的根拠があることが明らかになりました。

 知的財産を開放したことによって生じる各製薬会社への保証や、知的財産の複合として開発された薬の開発権利、そこから得られた利益の分配などなど、解決するべき課題は多いと思いますが、そこは、世界のリーダーの皆さんに調整をお願いしたいと思います。

 現状、実際問題としては、特許法の壁や企業の利益追求によって、抗COVID-19薬剤の開発速度は制限されてしまっています。

 各国の製薬会社の責任者が知恵を出し合った場合に到達するであろう、考え得る最高速度、最高効率の開発速度よりも、はるかに遅く、さまざまなしがらみによって妨げられているのが現状です。

 私は、このような現状に人々が寛容であり続けることは「不可能だ」と考えています。

 既に、社会は壊れ始めています。弱いところにしわ寄せが来ています。(COVID-19によって)仕事が無くなることのない医師が言っても、「おまえが言うな」とツッコミを入れられそうですが……。

 誰かが、「SARS-CoV-2との戦いは、第三次世界大戦だ」と表現していました。この戦いでは、一部の先進国が一人勝ちすることは許されません。許されてはいけません。許したら、世界が壊れます。



 では、最後にまとめさせて頂きます。

・世界にはRNA干渉技術に限らず、SARS-CoV-2の治療に応用可能な技術が各国企業に蓄積されています。

・先人が「『想定外の事態が起こりうる』ことを想定」した、法律(条約)もあります。

 今こそ、利益や常識の壁を取り払い、世界が一丸となって、最高速度、最高効率でSARS-CoV-2への対抗策を遂行可能な環境を整えるべき時なのではないでしょうか。

 企業にとって、特許技術はそれこそ命のように大切なものだということは理解できます。

 たった一人、しかもただの医者が訴える内容では無いのかもしれません。

 ですので、判断はEE Times Japanの読者である技術者の皆さんにして頂きたいと思います。

 「この記事をご覧の皆さまは、この提案をどのようにお考えになられるでしょうか?」

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