量子ビットを初期化する 〜さあ、0猫と1猫を動かそう:踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(3)量子コンピュータ(3)(4/8 ページ)
今回のテーマはとにかく難しく、調査と勉強に明け暮れ、不眠に悩み、ついにはブロッホ球が夢に出てくるというありさまです。ですが、とにかく、量子コンピュータの計算を理解するための1歩を踏み出してみましょう。まずは、どんな計算をするにも避けて通れない、「量子ビットの初期化」を見ていきましょう。
量子井戸を半導体ウエハーで作る
さて、ここから後半に入ります。「量子ドット方式」の実現方法について、お話しようと思います。
まず、量子ドットを実現するには、量子井戸を作れなければなりませんが、前回は、その原理を書いたところで、私が力尽きました。今回は、その実装について説明する予定でしたが、読者の方から、「量子井戸が、半導体ウエハー*)で作れる」ことを教えて頂きましたので、本人のご許諾を頂き、全部の資料と説明を使わせて頂きます。
*)資料を御提供して頂いた佐藤様から「このウエハーは、"シリコンウエハー"と呼ぶにはシリコンの含有量が少なく、”GaAs基板”では分かりにくいと思いますので、”半導体ウエハー”としてはいかがでしょうか」とご提案頂きました。
EE Times Japanの読者の皆さんならご存じの通りですが、IC,LSIなどの半導体デバイスは、全て半導体ウエハー(シリコンウエハー)上に回路パターンを焼き付け、エッチング、ドーピング、配線形成、ダイシング、ボンディングという工程を経て完成します。
量子井戸が、半導体ウエハ上に作れるのであれば、(ちょっと拙速な結論かもしれませんが)、現状の半導体技術で、量子ドットビットが作れる(量産できる)、ということです(よね?)。ちょっとワクワクしてきました。
頂いたメールを、以下に展開させて頂きます。
(1)量子井戸自体は(半導体ウエハの)構造が出来れば完成です
(2)製造時に不純物がどうしても混入します。その結果、不要な電子(野良猫)も発生します
(3)そこで、この井戸を1K(絶対零度+1℃)くらいまで冷やします
(4)すると、野良猫(2猫、3猫……)は全滅し、飼い猫(0猫)は大人しくなります
(5)電極に電圧を印加し、飼い猫(0猫)を井戸に向かわせます
(6)飼い猫は井戸の底でおとなしくしています
以上で量子ドットを作る準備が出来ました。
半導体ウエハーの図のままでは、私には理解できなかったので、前回作成した量子井戸の周りに、各層を配置してみました。
要するに、量子井戸を加圧して、”0猫”を閉じ込める、という理解で良いようです。
さてお話を続けます。
(7)地下100nmの所に猫がいる量子井戸の底があります
(8)表面に電極を形成し+に印加すると猫は紫の領域から出られません(猫は電子ですから)
(8)高さ方向は井戸の底から動けないので制限され、電極で縦横方向の移動を制限されたので点(ドット)領域にしかいられなくなりました。量子ドットの完成です
(9)なるべく冷やして狭いところに猫を押し込めば、0猫1猫だけになります
(10)また四角の電極を2個並べて、中間部分(濃い緑部分)だけ別電圧で制御すればゲートとして機能するはずと当時言われていました
さて、ここまでで、私は、量子井戸のハードウェアをイメージすることができました(佐藤さまに、再度、感謝申し上げます)。
量子井戸の中に壁を作る
さて、ここから、前回、この量子井戸の中に”0猫”と”1猫”を別々の場所で管理する方法として、「量子井戸の中に壁を作る」という話をしましたが、この実現方法についてお話します。
簡単に言えば、前述した量子井戸の壁と壁の間に、さらに壁をもう一枚追加する、というイメージです。
絶対零度と電圧で量子井戸の底に縛り着けている”0猫”に、光子のエサを適量与えて、”1猫”が登場できるように少しだけ元気にさせた上、さらに強烈な外部磁界を浴させ、動物虐待の限りを尽くします(量子ゲートを動かす時には、さらに電場の嵐の中にさらします)。
こうして、"0猫"と”1猫”の両方の性質を併せ持ち(イメージとしては、虐待によって”躁”と”鬱”の状態を”同時発症してしまうようになった猫”)が、"0猫"と"1猫"がそれぞれ確率50%ずつでそれぞれの箱に存在するようになります*)。
*)そろそろ、猫好きの担当Mさんがキレる頃かもしれませんが、構わずに、説明を強行します。(例えとはいえ、なかなかにツラいです(涙)。が、「好奇心は猫をも殺す」ということわざもあるくらいですから、ぴったりの例えなのかもしれません(担当M))
しかし、計算可能な量子ビットを作る(初期化する)ためには、”0猫”と”1猫”が重ね合わさった猫を作り出すだけでは足りないのです。
この"0猫"と"1猫"の大きさを変えたり、彼等が飛び跳ねるタイミングを微妙にずらしたりしなければなりません ―― 逆に言えば、この「大きさ」と「タイミング」さえ制御できれば、量子ビットの初期化はそれで完成したと言えます。
そして、この「タイミング」を表現する極めて便利な道具が「虚数」なのです。今回、この虚数について集中的な解説を行います(本シリーズにおいて、これを最後の「虚数」の説明とします)。
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