東京工大、極薄ウエハーのレーザー加工技術を開発:削りしろの幅を従来の4分の1に
東京工業大学は、極薄ウエハーにダメージを与えずに、ダイシングストリート幅を従来の4分の1に縮小できるレーザーダイシング加工技術を開発した。
チップの収率向上にも貢献
東京工業大学科学技術創成研究院異種機能集積研究ユニットの大場隆之特任教授は2020年6月、極薄ウエハーにダメージを与えずに、ダイシングストリート幅を従来の4分の1に縮小できるレーザーダイシング加工技術を開発したと発表した。
今回の研究は、東京工業大学を中心に半導体デバイスの設計や関連の製造装置、材料などを手掛ける企業が参加する研究グループ「WOWアライアンス」と共同で行った。
半導体デバイスは、さらなる高性能化と低消費電力化に向けた技術開発が進む。例えば、ウエハーの厚みをミクロンレベルまで薄くして、TSV(Through-Silicon-Via)配線技術で3次元積層する技術などもその1つである。
3次元積層技術を実現するためには、薄膜ウエハーを分割する時に、チッピングなどのダメージをなくし、ダイシングストリート幅(チップ間の削りしろ)を狭くするダイシング方法などを工夫する必要がある。その1つとして注目されているのが、ステルスダイシング(SD)と呼ばれるレーザーダイシング技術である。
研究グループは今回、薄膜ウエハーのダイシング工程における「ダメージ量と発生位置の定量化」および、「ダイシングストリート幅の削減」に取り組んだ
実験では、ダメージ検出の評価用チップとして、配線幅とスペースがそれぞれ1μmのTEG(Test Element Group)ウエハーを製作した。この評価用チップには膜厚が30nmのAlとTiを成膜。また、ダメージ発生位置を検出するため、レーザー加工ライン(ダイシングストリート)に対し、平行に1μmピッチでモニタリング配線を設けた。ダイシング後に、各モニタリング配線の抵抗値変化率を計算し、レーザー加工によるダメージを評価した。
製作したTEGウエハーを用い、「SDBG(Stealth Dicing Before Grinding)」プロセスでの加工を想定して、ウエハー厚み50μm時のダメージ評価を行った。加工には波長が1099nmと1342nmのレーザー光を用いた。
この結果、波長1099nmのレーザー光で加工した場合には配線抵抗値が増えず、ダメージが発生していないことを確認した。これに対し、波長1342nmのレーザー光は、加工中心近傍の配線抵抗が大きく増加、この部分にダメージが発生したことを示した。
ダメージレスのSD法におけるダイシングストリート幅についても比較した。従来のDBG(Dicing Before Grinding)プロセスでは、ダイシングストリート幅が60μmであった。これに対し今回用いたSDBGプロセスでは15μmとなり、4分の1に削減できることを確認した。この削減効果はチップ面積が小さくなるほど、チップ収率の向上に大きく寄与するとみている。
研究グループは今後、開発したダメージレスダイシング技術の実用化に向けて、波長1099nmレーザー専用光学エンジンの早期製品化を目指す計画である。
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