TSMC、米アリゾナ州での工場建設への意欲を強調:課題は生産コスト(1/2 ページ)
TSMCは現在、米国アリゾナ州への半導体工場の建設に向けて、トランプ政権と交渉を進めている。TSMCのチェアマンを務めるMark Liu氏は、同州に半導体工場を建設する意義について語った。
TSMCは現在、米国アリゾナ州への半導体工場の建設に向けて、トランプ政権と交渉を進めている。TSMCのチェアマンを務めるMark Liu氏は、同州に半導体工場を建設する意義について語った。
Liu氏は2020年6月、台湾の新竹で開催した報道機関向けイベントで、「最大のメリットは、顧客との距離が近くなることだ」と述べた。同氏はさらに、「TSMCはほとんどの事業を台湾で展開しているが、(アリゾナ州に工場を構えることで)世界中の優秀な人材にアクセスしやすくなる」と付け加えた。
Liu氏は、「台湾は狭い。私は、世界で最も優秀な人材を活用したいと考えている」と記者団に語った。
同氏は、「アリゾナ州は、生産拠点として多くの強みを備えている」と述べている。
同氏は、「アリゾナ州にはコロラド川からの豊富な水があり、再生可能エネルギーで発電される電気は非常に安価で、土地も広い。アリゾナ州は米国の両海岸の若者が行きたがる場所で、生活費も魅力的だ」と述べている。
それでも、Liu氏は不安を感じているという。同氏によると、米国では半導体生産への投資が高額すぎるという。「中国であれ台湾であれ、他のどの国であれ、生産コストは同じでなければならない。米国政府が復活を目指す半導体産業には、投資奨励金が必要だ。連邦政府と州政府には、投資奨励金の交付などの面でさらなる取り組みが求められる」(同氏)
同氏はEE Timesに対し、アリゾナ州への半導体工場建設を決断したことを認めたが、州政府との契約締結を待っている間は具体的な場所を明かすことはできないと述べていた。
生産技術で世界の半導体業界をリードする世界最大のファウンドリーであるTSMCは、数十年にわたる衰退を経て国内の半導体業界の好転を目指している米国政府との交渉において、強力な切り札を持っている。
前向きなトランプ政権
トランプ政権の当局者は、この契約が近く合意に至ると確信しているようだ。
米商務省のWilbur Ross長官は2020年5月14日の声明の中で、「120億米ドルを投じてアリゾナ州に半導体施設を建設するというTSMCの計画は、トランプ大統領の政策課題が米国の製造業にルネサンスをもたらし、米国を世界で最も魅力的な投資先にしたことを示している。この計画は、TSMC、アリゾナ州知事とスタッフ、政権の間の長年にわたる緊密な協力の結果である」と述べている。
TSMCを長年ウォッチしているCredit Suisse(クレディ・スイス)のバイスプレジデントであるRandy Abrams氏は、この計画は理にかなっていると指摘する。
「TSMCの工場は2024年に生産を開始し、月2万枚のウエハー生産を目指していく予定だ。2025年までにその生産能力を達成できれば、利益が出てくるはずだ。新工場では、FPGA、ネットワーキングシリコン、エッジAI(人工知能)用のチップセット、モバイル/IoT(モノのインターネット)製品の一部を生産することができる」(同氏)
Abrams氏によれば、アリゾナ州は、ChandlerにあるIntelの工場を含め、米国で4番目に大きな半導体雇用の拠点だという。米国の顧客基盤は、TSMCの売上高の60%を占めている、と同氏は付け加える。「米国に新工場を建設すれば、TSMCは米国の軍事用半導体の一部を製造できるようになる他、地震などの自然災害が台湾で発生した場合のリスクも分散できる。ライバルのSamsung Electronicsをはじめ、米国に先端プロセスの工場を持つGLOBALFOUNDRIESやIntelと、米国で互角に戦えるようになるだろう」(Abrams氏)
Intelは、TSMCの計画の重要な一部になるかもしれない。
Arete ResearchのシニアアナリストであるBrett Simpson氏は、「TSMCが、長期的にIntelとより戦略的な関係を築く可能性があることは誰もが知っている。Intelは、今後数年間でアリゾナ州に7nm工場を増設する計画だが、これは興味深い」と述べている。
「米国産業の復活を目指す」という計画が、米国の2大主要政党の間で幅広い支持を獲得した。このためTSMCは、これまで探し求めてきた助成金の一部を勝ち取ることが可能な、良い位置付けを確保することになる。
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