TSMC、米アリゾナ州での工場建設への意欲を強調:課題は生産コスト(2/2 ページ)
TSMCは現在、米国アリゾナ州への半導体工場の建設に向けて、トランプ政権と交渉を進めている。TSMCのチェアマンを務めるMark Liu氏は、同州に半導体工場を建設する意義について語った。
半導体の国内回帰に向けた法案の提出
米上院議員のMark Warner氏(民主党/バージニア州)とJohn Cornyn氏(共和党/テキサス州)が2020年6月10日に、米国の半導体製造を強化するための法案「CHIPS for America Act(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors for America Act)」を提出した。
この法案は、米国の半導体製造分野への投資を刺激するために、数十億米ドル規模の資金を投じるという。その中には、マイクロエレクトロニクス関連の政策における一環性を促進していく上で、外国政府パートナーとの間でコンソーシアムに参加することで合意に達した場合、10年間にわたって7億5000万米ドルのトラストファンドを割り当てるという方策も盛り込まれている。
中国は、このリストの中からあからさまに除外されている。
米下院のMichael McCaul氏(共和党/テキサス州)は、「CHIPS for America Actは、米国に数千人規模の高賃金の雇用をもたらすだろう。次世代半導体の製造拠点となるのは、中国ではなく米国だ」と述べている。
台湾のTSMCは、こうした助成金の一部を間違いなく獲得できるはずだ。
また、Credit SuisseのAbrams氏は、「このCHIPS for America Actにより、外国メーカーが、一部のサポートを受けるための資格を得ようと、米国の製造分野に積極的に投資するようになるだろう」と述べる。
課題はコスト
TSMCが米国で直面する主な課題として挙げられるのが、工場の稼働コストが高いという点だ。
Arete ResearchのSimpson氏によると、アリゾナ州の技術者の給与は、台湾と比べて2〜3倍高いという。
同氏は、「TSMCの台湾のエコシステムには、組み立て/テストメーカーや付帯的サービスなどが含まれているが、同社が米国でこのようなエコシステムを構築することはないだろう。このため同社にとって、助成金の必要性がますます強まっている」と指摘する。
またSimpson氏は、「TSMCは、国庫補助や連邦政府からのサポートを受けて、十分な助成金を得ることにより、ROE(株主資本利益率)20%以上を達成するという目標を実現できるはずだ。TSMCは株主たちに対して、収益性の向上を確約することができる」と述べる。
「州政府は通常、主要な米国工場投資に対するサポートを提供している。GLOBALFOUNDRIESのニューヨーク州マルタにある製造工場は、10億米ドルを超える国庫補助を受けたとみられているが、連邦政府がサポートを提供するのは非常にまれなことだ」(同氏)
さらに同氏は、「米国が大規模な国庫/連邦政府補助金を提示したことを受け、TSMCは、今回のアリゾナプロジェクトを実現することができるだろう。CHIPS for America Actが提供する強力な資金援助は、TSMCが現地の製造業に最大限の努力を投じることができるかどうかに関連している」と述べた。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 米議員、半導体強化に向けた法案を提出
米国は、半導体製造の復活に向けて新たな取り組みを開始した。基礎研究から先進のパッケージング技術まで、半導体エコシステム全体で“ポストムーア”の時代の技術革新を促進するために、数十億米ドルの投資と税制上の優遇措置が議員から提案された。 - TSMCも? 米中貿易摩擦で業界は過剰在庫に直面か
TSMCと、同社を担当するアナリストたちは、エレクトロニクス業界のサプライチェーンで過剰在庫が生じているとの認識で一致している。しかし、両者の見解はここから分かれるようだ。 - 「Cooper Lake」やAI向け新FPGAを発表 Intel
Intelは2020年6月18日(米国時間)、データセンター向けAI(人工知能)戦略の一環として、この市場に特化したCPU「Cooper Lake」や、専用AIエンジンを搭載した新FPGA「Stratix 10 NX」などを発表した。 - Intel、3D積層技術Foveros採用の「Lakefield」を発表
Intelは2020年6月10日(米国時間)、10nmプロセスを採用した同社のノートPC向けSoC(System on Chip)「Lakefield(開発コード名)」として「Intel Core processors with Intel Hybrid Technology」を発表した。 - NXP、車載向けSoCをTSMCの5nm技術で製造
NXP Semiconductorsは、車載向けの次世代SoCプラットフォームにTSMCの5nmプロセス技術を採用する。5nmプロセスで製造したSoCは、2021年にもサンプル出荷を始める。 - 2020年1〜3月ウエハー出荷面積は前四半期比微増
SEMIは、2020年第1四半期(1〜3月)における半導体用シリコンウエハーの世界出荷面積を発表した。2019年第4四半期に比べると2.7%増加したが、前年同期比では4.3%の減少となった。