Maximの買収、ADIの追い風に?:アナログ業界の巨大M&A(1/2 ページ)
Analog Devices(アナログ・デバイセズ/ADI)のプレジデント兼CEOを務めるVincent Roche氏は2019年5月に、投資家たちに向けて、「ADIに追い風が吹いている」と語っていた。同氏はこの時、最終的にADIが2020年7月13日(米国時間)にMaxim Integrated Products(以下、Maxim)の買収を発表するに至ったさまざまな出来事について、微妙に言及していたのかもしれない。
Linearを上回る買収額
Analog Devices(アナログ・デバイセズ/ADI)のプレジデント兼CEOを務めるVincent Roche氏は2019年5月に、投資家たちに向けて、「ADIに追い風が吹いている」と語っていた。同氏はこの時、最終的にADIが2020年7月13日(米国時間)にMaxim Integrated Products(以下、Maxim)の買収を発表するに至ったさまざまな出来事について、微妙に言及していたのかもしれない。
Roche氏は、「ADIはこれまで約3年ごとに、M&Aを苦労しながら切り抜け、市場の混乱状態をうまく利用して、一連の取引の規模を徐々に拡大してきた」と述べる。同氏はこの時、2020年5月に発表した2020会計年度第2四半期の業績結果についても触れている。Maximの買収金額は209億米ドルで、ADIが2017年にLinear Technologyを買収した時の148億米ドルを大きく上回る。
半導体市場では現在、M&Aの活動が鈍化するのではないかという見方もある。だが、大規模な戦略的買収のチャンスはまだ残っているため、ADIは半導体業界において、次の主要な買収/統合実施企業としての位置付けにあるといえるだろう。同社は、今回のMaximとの取引を株式交換で実施することにより、現金を準備せずに済むだけでなく、51億米ドルの長期負債もそれ以上増えることがない。さらに重要なのが、Maximが2020年会計年度第3四半期(2020年3月28日を末日とする)の時点で、7億米ドル超のフリーキャッシュフローを確保しているという点だ。ADIは今後のM&A活動のための“軍資金”を得ることになる。
Roche氏は発表資料の中で、「ADIとMaximの技術と人材を組み合わせることによって、その幅広さと深さが増し、より完全な最先端のソリューションを開発することが可能になる。われわれは、半導体業界における次なる成長の波を起こせるポジションにいる。あらゆる人々にとって健全かつ安全で持続可能な未来を作り出すことができる」と述べている。
両社は、今回の取引を“実行せざるを得なかった”ために、全て株式交換の形をとるという判断に至ったのではないだろうか。ADIは今回の取引の際に、さらなる債務を負って資金を確保することもできたが、その場合は株主たちから厳格な調査を受けなければならなかっただろう。ADIは、株式の発行により、膨大な障害を乗り越えることができたのだ。一方でMaximの株主たちは、半導体市場において優れた実績を誇るADIの所有権を3分の1も得ることができる。今すぐに現金収入を得られるわけではないが、将来的に優れた株式実績が約束されているのであれば、かなりの説得力があるはずだ。
ADIはさまざまなレベルにおいて、大きな勝利を収めていると言える。例えば、参入している複数の市場において競合企業を吸収合併したことの他、経験豊富なアナログエンジニアたちを確保している。事業強化やコスト削減の実現、顧客企業とのより深い関係性を構築していること、主要ライバル企業との競争に向けた事業規模の拡大を実現していることなども挙げられる。
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