Maximの買収、ADIの追い風に?:アナログ業界の巨大M&A(2/2 ページ)
Analog Devices(アナログ・デバイセズ/ADI)のプレジデント兼CEOを務めるVincent Roche氏は2019年5月に、投資家たちに向けて、「ADIに追い風が吹いている」と語っていた。同氏はこの時、最終的にADIが2020年7月13日(米国時間)にMaxim Integrated Products(以下、Maxim)の買収を発表するに至ったさまざまな出来事について、微妙に言及していたのかもしれない。
悪影響をうまく回避しているADI
アナログ市場全体は、自動車を含む主要セクターの問題で売り上げが圧迫されているが、ADIに関しては、ヘルスケア機器業界からの需要の急増によって相殺されている。
例えば、アナログ半導体市場のトップであるTexas Instruments(TI)の2020年の売上高は、2019年の144億米ドルから14%近い減少となる124億米ドルになる予想されている。ただし、複数のアナリストが、TIの売上高は2021年には回復すると予想しており、コンセンサス予想は139億米ドルとなっている。
ADIはこれまでのところ、収益と売上総利益に悪影響が及ぶ可能性をうまく回避している。米マサチューセッツ州ノーウッドを拠点とするADIは、Linear Technologyの大型買収を実施後、ここ数年は売上高を伸ばすのに苦労してきた。具体的には、2018年10月30日を末日とする2018会計年度の売上高は62億米ドルに達したが、2019年度の売上高はGAAP(米国会計基準)ベースで60億米ドルに減少した。2021年度は回復すると予想されているが、2020年度は52億7000万米ドルにまで落ち込む見通しだという。
ADIが「Maximの買収によって、2018年度の業績をベースにした合併会社のプロフォーマ売上高は82億米ドルになる」と述べているように、Maximの買収は、両社にとって救いの一手となるだろう。コスト削減の「シナジー効果」が期待されることから、ADIの株主や投資家、財務アナリストは間違いなくMaximの買収に賛同すると思われるが、ADIと半導体市場全体にとってそれ以上の意味がある。この契約は、ADIの規模を拡大し、主要な統合企業に押し上げ、買収対象になりにくくするものだ。Maximは、ライバル企業に対抗するために売り上げと販路の拡大に向けて奮闘を続けてきたが、必ずしも成功ばかりではなかった取り組みに終止符を打つことができる。
Maximは堅実な取り組みを続けてきたが、最新の業績とアナリストのコンセンサス売上予測は、同社の課題が増大していることを示している。アナリストは、2020年6月までの同社最終会計年度売上高を21億6000万米ドルと予想しており、2019年度の23億1000万米ドルと2018年度の24億8000万米ドルからは減少する見込みだ。さらに、現時点では2021年度の売上高も改善が見込めず、約21億8000万米ドルと横ばいになると予想されている。Maximは2020年4月に、「製造業務の制約」を理由に、2020年6月期の売上高が前年同期の売上高5億5650万米ドルに比べてかなり大きく下がり、4億8000万〜5億4000万米ドルになると予想していた。
Maximは、他にも差し迫った課題を抱えており、何年も前から買収のターゲットとなっていた。60パーセント台の半ばという同社の売上総利益率は、買収者を引き付ける十分な要素となっている一方で、営業利益率は32%であることから、「買収すれば、厳しいコスト削減策を通じてMaximの価値をさらに“絞り出す”ことができるかもしれない」という印象を与えていた。
ADIは最適な買収者の候補だった。Non-GAAPベースで70%という売上総利益率は、業界で最も高い部類に入る。同社の営業利益率41%もまた、コスト低減の強みを証明しており、これはMaxim買収後にも反映されると期待されている。ADIはプレスリリースで、今回の買収により2億7500万米ドルのコスト削減につながると述べている。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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