窮地にある半導体商社はIoTを活用したサービス事業に着目すべき:大山聡の業界スコープ(31)(1/2 ページ)
今回は、半導体商社が今後検討すべき事業について、提言してみたいと思う。
前回記事で、日系企業各社に対してDX(デジタルトランスフォーメーション)を積極的に推進すべきだと申し上げた。手作業で行っている業務をデジタル化、システム化することは海外企業の方が進んでおり、半導体業界においてもその影響が目に見える形で表れつつある。2019年11月の記事でも紹介した「マーケティングオートメーションが半導体商社を危機に追い込む現実」はその典型的な事例であり、同記事では半導体商社の立場がより一層厳しくなっていることについて述べた。今回は、半導体商社が今後検討すべき事業について、提言してみたいと思う。
相次ぐメーカー都合の商流変更
2019年11月の記事で述べたことと重複するが、Texas Instruments(以下、TI)はこれまで、売り上げの過半をArrow Electronics、Avnet、WPGといった半導体商社に依存していたが、AvnetおよびWPGとの特約店契約を2020年12月末に終了する予定である。日本においても、長年にわたり販売代理店として提携してきた丸文との販売特約店契約を2020年9月末に終了する。TIは今まで半導体商社に任せていたマーケティング業務を、社内に取り込んでシステム化する動き、いわゆる「マーケティングオートメーション」を進めている。これはまさにDX推進の一環である。TIと同様に半導体商社を幅広く活用しているNXP Semiconductorsも、DX推進で直販比率を高めようとしており、商社の事業環境はさらに厳しくなるだろう。また日本においても、ルネサス エレクトロニクスが16社の正規代理店を6社に絞り込むことを決定した。1951年の設立当時からNEC(=ルネサスの前身の1社)の代理店を務めていた三信電気のルネサス商権はリョーサンへ、1947年の設立当時からやはりNECの代理店を務めていた佐鳥電機のルネサス商権は新光商事へ、すでに引き継ぎが進められている。これはDX推進とは無関係だが、商社の置かれている状況が厳しくなる、という点では共通した動きである。
図1は、主な半導体商社の売り上げ規模を比較したものである(システム/その他の売上高を含む)。メガディストリビューターと呼ばれるArrow、Avnet、WPGに比べて、日系商社の売上高は規模が小さい。縮小しつつある日本半導体市場において「本当にこれだけの社数が必要なのか」と思われるほど多くの商社が乱立していることが分かる。
前回記事でも述べたが、日本においては「上場企業=信頼できる企業」という意識が強いため、株式市場での資金調達の必要性がなくても、商売上の利点を求めて上場している商社が多数存在する。筆者としては、売上高、収益を含む各社の財務状況を把握できるのでありがたいことなのだが、各社は株式市場において株価、時価総額が決められてしまう。これは商社に限らず、上場企業の宿命なのだが、問題は半導体商社に対する株式市場の評価が非常に低い、という現実である。
図2は半導体商社のPBR(Price Book Ratio:株価純資産倍率)を比較したものである。
PBRは1.0を上回るのが通常だ。PBRが1.0未満の場合は、今後借金が拡大する懸念がある、あるいは事業規模や価値が縮小する懸念があるなど、将来的に何らかのマイナス要素が表面化するようなケースが想定されるわけだ。そして図2の通り、半導体商社20社中16社がPBR1.0を下回っているのだ。規模の大小はあまり関係なく、メガディストリビューターのAvnetも株式市場では厳しい評価を受けている。株式市場の評価が常に正しいとは限らないが、「半導体商社の過半がPBR1.0を下回っている」という問題は10年以上前から発生し、長年にわたって低い評価が定着しているのである。そして昨今、半導体メーカーの都合によって商権を取り上げられる事例が増えていることを考えると、株式市場の厳しい評価は正しかった、と言わざるを得ないだろう。
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