検索
連載

あの医師がエンジニアに寄せた“コロナにまつわる13の考察”世界を「数字」で回してみよう(64)番外編(8/13 ページ)

あの“轢断のシバタ”先生が再び(いや、三たび?)登場。現役医師の、新型コロナウイルスに対する“本気の考察”に、私(江端)は打ち震えました。今回、シバタ先生が秘密裡に送ってくださった膨大なメール(Wordで30ページ相当)に書かれていた、13の考察をご紹介します。

Share
Tweet
LINE
Hatena

【考察7】「猫愛」が過ぎる編集担当Mさんのご心配について調べてみる

 新型コロナウイルスはさまざまな種類があり、さまざまな種類の動物が感染します。そして、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2も、いろいろな動物種に感染可能なようです。

 もともとSARS-CoV-2は、コウモリ、センザンコウからヒトに感染したとされていますし、SARS-CoV-2の研究材料としてマウス、ラット、モルモット、サルに感染させて薬剤やワクチンの効果や挙動を見る研究が報告されています。

 イヌ、ネコへの感染、そしてイヌ、ネコからの感染については既にペット愛好家の話題になっておりみな様もご存じかも知れませんが、あり得るようです(参考:米国疾病予防管理センター[CDC])。幸いなことに、私が確認することができた2例のネコについては、COVID-19から回復したと報告されています*)

*)江端ツッコミ:Mさんのところの大切な猫ちゃんは、大丈夫ですか?

*)担当M返信:江端さん、お気遣いありがとうございます! 実はうちの愛猫は2019年4月に、20年11カ月の天寿を全うしまして、今はお空にいますので大丈夫です。動物もコロナに感染する可能性があるとのニュース、全ての飼い主さんたちも心配だろうな……と思いながら見ていました。

 感染拡大への寄与については、フェレットやネコに比べてイヌの方が感染拡大させにくい、という報告が紹介されていました。もちろんこれらは実験環境での話なので、直ちに社会からペットが拒絶されるべきという論調につながるものではありません。

 公益社団法人東京都獣医師会は上記CDCのページを引用して「冷静に、背景や情報源を確認しつつ、どう行動すべきかを考えてください」と声明を出しています

 ウサギ・鳥・ウシ・ブタなどについてはSARS-CoV-2への直接的な感染能を確認できませんでしたが、これらの動物はその種に固有のコロナウイルスに感染することは業界では常識のようですし、「SARS-CoV-2が鳥や哺乳類全般を介して広がる可能性は当然あるよね」という論調の論文もあるようです(参考)。

 SARS-CoV-2が家畜や渡り鳥に及ぼす病原性やヒトへの感染リスクなども、これから検討されてぼちぼちと話題にのぼってくるでしょう。

 個人的には、愛玩動物からの感染リスクが低いことが明らかになるまでは大学構内に住み着いている野良猫には近づかないでおこうかな、と考えています。鳥(特に渡り鳥)については、伝染に対しての影響が小さいことを祈るのみです。ええ、きっと小さいはずです。

担当Mの独り言:おや? シバタ先生はトリのファンなのかしら……? 渡り鳥と遊んでいるとか……?

【考察8】トイレの感染のリスクについて考えてみる

 便中に感染可能かもしれないSARS-CoV-2については、「あるかもしれない」という意見「いやいや糞口感染は無いんじゃないかな」という意見があり、まだまだ確定したことを言える状況にはないようです。

 感染性があるかどうかは別として、便中にSARS-CoV-2のRNA配列(の全長または断片)が検出されることは、確実です。

 ただし、RNAが検出されることと感染性を持ったウイルスが便中にあるかどうかは別問題です。便中にウイルス粒子があると主張する論文が前記の引用に含まれていますが流行の一翼を担いうるかは現時点では未確定と思います。

 便のその先、下水中に完全なウイルス粒子が含まれているという報告は見つけられませんでしたが、下水中のSARS-CoV-2のRNA配列を検出、定量する事でその地域の流行を推測する手法について、以前ニュースになっていました。

 RNAは簡単に分解されますが、完全にバラバラになるわけではないのです。細かな断片にはなるけれどもRNA分子の核酸配列の一部はマイクロRNAレベルとして長期にわたって存在し続けるそうです。

 一昔前は「RNAはDNAに比較して不安定で、一般環境下ではすぐに分解してしまう」というのが常識だったと思うのですが、この分野の常識はどんどん上書きされて、少しでも論文レビューを怠ると、簡単にウソの情報を発信してしまいそうです。

 昨日の非常識は今日の常識、ネットリテラシーの重要性はサイエンスの分野では特に重要であると、自戒を込めて申し上げます。

 RNAウイルスが糞便中で安定していられるかという問いについては、糞便や嘔吐物を仲介して感染するRNAウイルスとしてノロウイルスロタウイルスが有名です。また、消化器症状を主体とするウシコロナウイルス感染症は、糞便を介して感染するようです(参考)ので、COVID-19が糞便や吐物を仲介して感染することが将来的に立証される可能性は、十分にあると思っています。

 立証前から怖がりすぎることは無いとは思いますが、とりあえず、個人的には、

(1)トイレ利用の後には石けんで手洗いする
(2)公衆トイレ利用時にはマナーを守ってキレイに利用する
(3)可能な限り公衆トイレは使わないようにする、

を心掛けています。清掃業者の方々は、特に注意して作業して頂きたいと思っております。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る